暗がり

一体なんだったのだろう。さっきの会話は。

ある部屋に、人が群がっている。

「あそこか。」

祐一が呟く。

私たちは人だかりの隙間からその光景を見ることにした。

血肉の惨殺死体があるかと思ったのに、何かで首を絞められたような跡が首にあるのに首吊りにはされていない半端な絞首刑の様だった。

14つほどの少女。14にしては低い背。肩までの艶やかな黒髪。

ぞっとした。

まさにあの少女だったのだ。

部屋は小説や化粧道具だけでなく割れた花瓶や絵皿、鏡なども散乱している。ゴミ箱も倒れている。

たぶん乱闘があったのだろう。でも、血の一つも見当たらない。それに、少女の首以外怪我は見当たらない。

よーく見ると、使い捨てのビニル手袋が落ちている。

…まさか、殺人…?そんなわけないよね。だってここはホテル。小説じゃああるまいし、私のは関係が無....。

その願望は、一瞬にして打ち砕かれた。

警察の言葉だった。

「こりゃ、殺人事件としか考えられないな。可哀想に、こんな歳で殺されて…。」

人情深そうな、警部の言葉。

「名前は『宮原ナミ」。14歳女。死因は…」

怖いのに、ひどく神妙な気持ちだった。天寿を全うしない者の顔を初めて見た。

「帰ろう。」

え?

「環。」

でも、何でここに?

驚いて呆然としていると、

「ねえ、詩乃ちゃん、すっごく顔青いよ。帰ろう。」

帰りたかった。でも。逃げ場がない気がした。

人だかりで出て行きにくいし、出て行ったら怒られる。

それだけじゃなかった。

誰がこんな事をしたのかという怒りと、何かが起こるかもしれないワクワク。

それが入り混じって、何も出来なくなっていた。

私、こんなふうに深く考えたことあったかな?

環が呟く。

「うち、帰る。あと、何で来たかは、少し寂しかったから。」

それだけ言って、帰って行った。

「そろそろ帰って下さーい。捜査の邪魔です。」

物を言わさぬ警察の声で、場は解散となった。

ほっとした様な顔。心配そうに強張らせた顔。同情して悲しそうな顔。

様々な顔。

ここで私は、何の顔をすれば良いの?

怖い。何も考えたくない。







これ、夢だよね………






ダイジョウブダヨネ・・・

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