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 えぴねは教員採用試験に合格し、教師になった。一人暮らし中の部屋から久々に実家へ顔を出すと、年端もいかない子豚が話しかけてきた。

「えぴねちゃんは、なんのおしごとをしているの?」

「学校の先生だよ。『お母さん』みたいな子がたくさんいるの」

「そおなんだ!!」

 この『母親』も何匹目だったか。父親もおそらくまともに覚えてはいない。その辺の豚をはした金で買いあさる生活が続いているが、よくある話だ。いつだったかある程度の年齢の豚を買って、何かがかみ合わなかったのか大喧嘩をしていた。その豚は夕方には自ら屠殺機に入っていった。以来、父親はいやに幼い豚ばかりを買ってくる。

「えぴねちゃん、つぎはいつくる?」

「そうだね、また今度かな」

「そっか」

 玄関先。『母親』はぬいぐるみを抱えて、えぴねを見送る。

「ばいばーい」

「バイバイ、『お母さん』」

 えぴねは無表情のまま、『母親』に手を振った。たぶんもう明後日くらいには加工が終わるんだろうなと思いながら。

 そして案の定、えぴねはこの『母親』に二度と会うことはなかった。 


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