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「あの…!あなたの個体識別番号、教えてください…!」

 高校近くのバイト先。レジ対応中のえぴねは学生服姿の客に絡まれた。

 個体識別番号とは、えぴねたち豚に振り分けられている番号だ。なぜそんなものを聞かれたのかというと、流行っているドラマのせいだ。

 男と豚が恋に落ち、一度は離れ離れになる。失意の男の前には、失ったあの豚と同じ個体識別番号を掲げるバラ肉のパックが。事前に番号を教えてもらっていた為、二人はスーパーの精肉売り場で再会できたのだと。なおこの場面で映る識別番号は偽物だが、肉は実際に演じた俳優豚のものである。

 それ以来、世間では豚に識別番号を尋ねる行為が若者たちのトレンドとなっていた。どこにいても、あなたのことを探し出してみせるという、はた迷惑なごっこ遊び。

「ご注文は以上でしょうか、少々お待ちください」

 えぴねは定型文を繰り返すと、レジを隣の豚に交代して裏方に下がった。ちょうどシフトも終わる時間だった。伝言用の付箋にでたらめな番号を書きなぐると、自分と入れ替わりでレジに入る店長へ事情を説明した。

「了解です。えぴねさん、お疲れ様です」

「お疲れ様です。では失礼します」

 えぴねはそのまま裏口を出て帰った。偽の番号が乗ったセットメニューを前に、学生と友人たちは大いに盛り上がった。

 個体識別番号は、その名の通り個体を識別するための番号であって、日常生活では特に何の効力も持たない。

 ヒートアップして大騒ぎする学生たちの制服を見て、店長は彼らの所属する学校に通報した。


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