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「えぴねちゃん!大きくなったら、何のお料理になりたい?」

 中学の教室。制服を着た子豚がえぴねに話しかけてきた。

 どうあしらったものかとぼんやりしているうちに、その子豚はまくしたててきた。

「あたしはねっ、やっぱりトンカツが一番カワイイよねって思ってるんだ!」

 子豚が持ち込んだ雑誌をめくり、見開きページを掲げる。一面を飾るトンカツのグラビアと、端に写る生前の豚の顔。その辺で流通しているありふれた週刊誌だった。

 えぴねの返答を待たず、子豚はいつも仲良くしている他の子豚の近くへ去っていった。暇つぶしだったのだろう。終始どうでもよかった。えぴねは長い溜息をつく。


 この世界の豚は、食べられることが喜びである。肉が瑞々しいうちに食べてもらえることが幸せである。そういうことにされている。

 肉の発色を良くする美容法や食欲をそそるハーブ香水などが出回り、豚から豚へ伝染していく。若い豚の肉は柔らかい、いや噛み応えのある肉の方が好きだ、有名人がプロデュースした豚の肉だ、自分で大事に育てた豚だ。絵本の主人公は王子様に見初められて豚しゃぶになり、漫画のヒロインは俺様キャラに溺愛されてベーコンになる。

 

 えぴねは進路調査票を書いて、担任に提出した。進学希望に丸をつけ、合格県内にある学校の名前を記入した。

 担任は驚いた。長年の教員生活の中で、調査票を本当に提出する豚はほぼ存在しなかったからだ。戸惑ったが、何か困ったらすぐ相談してくださいね、とだけ言っておいた。

 えぴねのクラスメイトの八割の就職先は皿の上だった。


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