第29話 『出口のないロータリー』
「異常事態調査室」登録者数:66,972人 → 69,035人(+2,063)
投稿動画『出口のないロータリー』視聴数:112,417回
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
──あなたは、“ぐるぐる同じ場所を回ってる”感覚を覚えたことはありますか?
「今日は、内定祝いのドライブで、奇妙な交差点に迷い込んだという学生さんからの投稿です」
「送ってくれたのは、大学4年生の男性。夜のドライブで体験した、出口のない交差点の話です」
【DM本文より】――
大学4年の春、就職活動が終わり、内定も無事決まった。
その夜、友人2人と「就活お疲れ会」と称して深夜のドライブに出かけた。
夜道を走っている途中、Bがふと口にした。
「この辺、地図だと“ロータリー交差点”があるらしいけど、今どきそんなのないよな?」
軽いノリでその場所へ向かった俺たちは、やがて“問題の交差点”に差し掛かる。
確かに円形の構造だったが、街灯が少なく、妙に静まり返っていた。
1周して出口を探すが、道がどこにも繋がっていない。
曲がっても、また元の交差点に戻ってしまう。
気づけばスマホのGPSはグルグルと回り、現在地を見失っていた。
時計は0時52分で止まり、スマホすら反応が悪くなっていた。
そのとき、カーラジオが突然切り替わり、知らない“相談番組”が流れ始めた。
──『今夜、3人のうちの誰かが、降ります』
助手席のBが無言になり、運転していたCが叫ぶ。
「ふざけんなよ! なんなんだよこれ!」
車内のBluetoothが勝手に音楽を流し始める。
しかも、それは“逆再生”だった。
音程が下がり、歌声は歪んで、声ともつかない低音に変わっていた。
パニックになりながらも、俺が半ばヤケでその音に合わせて歌う。
それにBとCも続く。
まるで合図だったかのように、
車内に女の声が響いた。
──『出口はこちらです』
次の瞬間、目の前が一瞬だけ真っ白に光った。
気づいたときには、朝日が差す国道を走っていた。
時計は朝5時18分。
スマホの録音アプリには、逆再生された“歌声”が、しっかり残っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【検証配信】
水島は投稿者が送ってきた音声ファイルを再生する。
スピーカーから流れるのは、何かの楽曲が逆再生されたような、低く歪んだ音声。
「この音、よく聞くと……言葉になってる部分があるんです」
コメント欄がざわつく。
『さっき“やめて”って聞こえた』
『たすけて、って言ってない?』
水島は、投稿者のルートを地図で追いながら続ける。
「問題のロータリー交差点ですが、現在の地図では確認できません」
「ただ──10年以上前の古い地図には、確かに存在していた痕跡があるんです」
水島はロータリー構造が“事故多発”のため封鎖された過去を紹介する。
「これは、過去の記憶に“迷い込んだ”のか、それとも何かの“残留構造”だったのか」
最後に、水島はこう締めくくる。
「“今夜、誰かが降ります”という声──
あれは、もし誰かが気づかずにドアを開けていたら、
あるいは誰も“歌わなかったら”、
いまこのDMは、届いていなかったかもしれません」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《動画コメントより(抜粋)》
👤ロータリーって怖い
昔、地元のロータリーでも事故多発して封鎖されたことあった。記憶に残りやすいらしい
👤逆再生の歌=合図?
もしかして“向こう”と通信するための歌だったのかな……
👤誰かが降ります
この言葉、めっちゃ怖い。電車のアナウンスみたいだけど、意味が違いすぎる……
👤似たような体験
友達が山道で同じ道ぐるぐるして、後部座席に“知らないやつ”が乗ってたって話思い出した
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます