第30話 『階段の数が合わない』
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投稿動画『階段の数が合わない』視聴数:115,402回
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──あなたは、同じ階段を何度登り降りしても“段数が合わない”ことがありますか?
「今日は、廃ビルで不思議な階段に遭遇したという投稿を紹介します」
「送ってくれたのは、心霊スポット巡りが趣味だという20代男性。友人と一緒に探索したときの出来事です」
【DM本文より】――
水島さん、こんばんは。
先日ちょっと不思議な体験をしたので、聞いてもらえないでしょうか。
俺と友人のMで、郊外にある廃ビルに行ったんです。
夜だったので懐中電灯を頼りに進んだら、エントランスの奥に古びた階段がありました。
何気なく段数を数えながら登ったんですが──どうやっても最後の一段が“足りない”んです。
最上段が目の前にあるのに、数が合わないって変じゃないですか?
試しに降りてみたら、今度は逆に“1段多い”。
登っても降りても結果は同じで、何往復しても直りませんでした。
その途中、Mが急に「さっきから……後ろに足音がある」って言い出したんです。
慌てて振り返ったんですけど、誰もいません。
ただ、暗闇の奥で一瞬だけ、何かが動いたように見えました。
帰ってから動画を見直すと、階段の奥に“もう一つの足”が、段の影から覗いていました。
これ……やっぱり、普通じゃないですよね?
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【実地検証配信】
水島は投稿のあった廃ビルを訪れ、暗い階段の前に立った。
手元のライトを一段ずつ照らしながら、声に出して数え始める。
「……17、18……ん? おかしいな」
最上段に到達した段数は、19。
「いや、変ですね。検証前に投稿者さんから送ってもらった映像を見たときは、はっきり18段だったんですよ」
「しかも、その動画では何往復しても18段で変わらなかったはずなんですけど……」と視聴者に向かって苦笑する。
「ちょっともう一回、下りながら数えてみますね」
降りると──今度は20段。
「え、増えてますよね? 今、数えてましたよね? 俺の数え間違いじゃないですよね?」と、カメラを見つめながら念を押す。
三往復目を始めたときだった。
マイクに、自分の足音と微妙にズレた“もう一つの足音”が入り始める。
コン……コン……と、半拍遅れてついてくる音。
「……今、聞こえました? これ、俺の足音だけじゃないですよね」
水島は立ち止まり、カメラを後ろに向ける。
暗闇しか映らないが、コメント欄が一斉に動き出す。
『今、後ろに影動いた』
『階段の奥に足あったぞ』
『やばい、マジでいる』
水島は、一歩ずつ後ずさるように階段を降り、そのまま建物を出る。
「この場では続けられません。一旦、車に戻って安全な場所で映像を確認します」
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暗い車内から落ち着いた声で水島が話し始める。
「ちょっと、映像巻き戻します……」
配信画面を操作し、現場でそのままコマ送り再生を行う水島。
暗がりの奥、最上段の手前──段の影から“もう一つの足”が、じっと動かずに映っていた。
しばらくその映像を見つめた後、水島は小さく息を吐く。
「……これ、登ってきいたのは俺だけじゃないみたいですね」
「さっきの階段、やっぱり段数が変わるだけじゃなくて……映像に映った足、形がおかしいんですよね」
「つま先が逆を向いているように見える。あれは人間の歩き方じゃないです」
後日、水島は再びカメラの前に現れ、調べた結果を報告した。
「あの廃ビル、十数年前に事故があったらしくて……最上階から転落した作業員の話が残ってます。
しかも、その人は片足に大怪我をしていて、歩き方がかなり不自然だったと」
「段数のズレと足跡の影──もしかしたら、あの階段自体が“その時”を繰り返しているのかもしれません」
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《動画コメントより(抜粋)》
👤stair_freak
段数ズレる現象って、昔から霊障の定番らしい。空間が引き伸ばされるとか。
👤ghost_step
あの足、形おかしくなかった? つま先が逆向きだった気がする。
👤M_Night
水島さん、降りてる時に後ろの足が“増えて”たの見た人いる?
👤匿名希望
最上段にだけ、誰も踏んでないのにホコリが削れてた。
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