第28話 『返事をするドア』

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──夜中の静かな部屋で、誰かが“ノックしてくる”音が聞こえたら、あなたはどうしますか?


「今回は、“ノックに返事をすると、返される”という奇妙な現象に悩む投稿者さんの話です」

「送ってくれたのは、一人暮らしをしている20代の男性。玄関のインターホンが壊れていて、訪問時はノックで応じるようになっているそうです」


【DM本文より】――

「はじめて起きたのは、一週間ほど前の深夜でした」

「“コン、コン”って、玄関をノックする音がしたんです」

「誰か来たのかと思ってドアスコープを見たけど、誰もいなかった」


「気味が悪くて、“いません”って言ったら──『コン』って、ひとつノックが返ってきたんです」

「まるで、返事みたいに」


「翌日も、またその翌日も、夜中に同じように“コン、コン”って来るんです」

「試しにスマホで録音したら、ちゃんと音は残ってて……怖くなって、録画用のカメラも設置しました」


「……でも映像を見て、もっと怖くなったんです」


「ノックの音がしたとき、“ドアの外”には誰もいなかったんです」

「音はするのに、ドアの前には誰もいない──そんなこと、ありますか?」


──


【検証配信】


「今回は、投稿者さんの自宅に設置されたカメラ映像を中心に見ていきます」

「注目すべきは、“ノックの音がどこから聞こえているのか”です」


水島が再生を始める。

カメラは玄関側を映しているが、映像には誰の姿も映っていない。


「ここですね。音、聞こえましたか? “コン、コン”と、2回」

「そして──投稿者さんの声で、『いません!』」


次の瞬間、「コン」と1回だけ、ノックの音が返ってくる。


「これが、投稿者さんが言っていた“返事”のようなノックです」

「問題はこのノック、“ドアの外”からではなく、“中”から鳴っているように聞こえることなんです」


水島は音声スペクトラムを表示する。

ノック音の波形は、リビングのマイクに近い位置から記録されていた。


「投稿者さん本人が叩いた可能性は低いです。映像の中で、彼はリビングにいて動いていませんし、玄関付近にも誰もいません」

「つまり、“叩いてる存在”は、誰でもなく──“部屋そのもの”なのかもしれません」


「声を出すと、ノックが返る。

ドアを介して、こちらの“呼びかけ”が、“もう一方の存在”を反応させている」


「まるでドアが、“こちらの声に反応する仕組み”として動いているように見えるんです」


「あるいは──“向こう側”が、こちらの認識に“合わせて”反応しているとしたら?」


水島はゆっくりと語りかける。


「あなたが『いません!』と声を出したその瞬間、“いない存在”が、こちらに意識を向けて、そっと“返事”をしてきた……」

「もしもそれが“あなたの存在を確認するため”だったとしたら──」


視聴者のコメント欄に緊張が走る。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


《動画コメントより(抜粋)》


👤ドアこわ民

うちもインターホン壊れてるんだけどやめて……


👤音の出どころ

え、部屋の中から音ってどういうこと……? ホラーすぎる……


👤境界説

これって、ドアが“向こうとこちら”の境目じゃなくて、“こっちの中”に向こうが入ってきてるってこと?


👤一人暮らし終了

怖すぎて実家帰る


👤声が鍵

「いません」って言うことで、相手に存在を知らせてるのかも……言わなきゃよかった系?

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