第18話 叶え屋ポスト

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投稿動画『叶え屋ポスト』視聴数:91,110回


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──それは、山の集落に佇む、ひとつの赤いポスト。


「願いを書いた紙を入れると、叶えてくれる」

そんな風習が、今も残っているという。

ただし、祖母は言った。「絶対にやるな」──と。


「今回の投稿、最初は『田舎の不思議な話』くらいのつもりだったんですよ」

「でも、読み進めていくうちに、“記憶があいまいになってる”ってところが引っかかって──」

「これは、調べておかないといけないなって思いました」


今回の投稿は、実家に帰省していた大学生から寄せられた。

帰省先の裏山で見つけた“赤いポスト”は、どこか異様に清潔で、まるで今でも使われているようだった。



【DM本文より】――

「小さい頃、祖母に“あれだけは絶対に使うな”と釘を刺されていたポストがあります。

赤くて古びたものですが、なぜかいつ見ても埃ひとつなく、誰かが手入れしているような不気味さがあるんです。


昔そのポストを使った人が“願いが叶った”と言っていたのを、うっすら覚えています。

私自身、子どものころに何かを“お願いした”ような記憶があるんですが──

何を願ったのか全く思い出せない──それが一番、怖いんです」



【検証配信】――

水島は投稿者の村を訪れ、近くの民宿から配信を開始した。

夜道を進み、人気のない広場の一角──そこに“赤いポスト”は佇んでいた。

中を確認すると空だが、外観はどこか手入れされているように清潔だった。


「投稿者さんが言ってた通り、めちゃくちゃきれい……誰が使ってるんだ、これ?」


水島は「配信がうまくいきますように」と小さな願いを書き、ポストへ投函する。

翌日、その動画はなぜか急伸し、トレンド入り目前となる。


配信翌朝──

水島はいつものようにスマホを手に取りながら、ふとつぶやく。


「……あれ?LINEのトーク一覧、ここに誰かいた気がするんだけど……空いてるんだよな、枠が」

「トークの履歴の並びも、こんな感じだったっけ……?」


画面に直接見せることはないが、水島のちょっとした戸惑いが視聴者にも伝わる。


コメント欄:

👤ぐり:え、昨日“友達から返信来てた”って言ってなかった?

👤むつき:記録のスクショ、あのアイコンなかった気がする…


続けて、水島が動画素材を確認している最中、ある写真を見せる。


「これ昨日の配信サムネ……って、あれ?」

「なんか俺、顔ちょっと暗くない?……いや、照明の位置変えてないはずだけどな」


コメント欄:

👤しめさば:光の問題じゃない気がする…

👤ハル:輪郭ぼやけてる?フィルターかかった?


2度目の投函。

水島はポストに向かって、こんな願いを書いた。


「大学時代に途中で飛んだ動画編集データ、見つかりますように」


配信中にふと見つけた古いHDDのフォルダ。

そこに、数年前に紛失したはずの編集済みデータが完全な形で残っていた。


「マジかよ……これ、大学の卒制のやつだ……」

願いは確かに叶っていた。


しかしその日の夕方、配信用に使っていたスマホの直近1週間の写真が全て消えていることに気づく。

ロールには“スクリーンショット”だけが残り、旅行中に撮ったはずの風景や食事の写真が抜け落ちていた。


👤しじみ:え?配信前のごはんの写真見たよね?

👤ふりかけ:Twitterに上がってた画像も消えてるよ…


3度目の投函。

願いの内容はさらに踏み込んだものだった。


「壊れたPCが直りますように」


以前、作業中に水をこぼして完全に沈黙していたノートPC。

その日、電源を入れると──静かにファンが回り、何事もなかったかのようにデスクトップが立ち上がる。


「……これ、本当に直ったのか?いや、いやいや、マジか」


PCの奇跡的な復活に戸惑いながらも、配信を続ける水島。

だが、夜が更ける頃、民宿の扉が突然激しくノックされる。


「……あなた、誰ですか!?勝手に部屋に入らないでください!」

「警察呼びますよ!」


顔を青ざめさせた民宿のおかみが、水島に向かってそう叫んでいた。

水島が名前を名乗るが、彼女は困惑しながら後ずさる。


「“水島さん”って……うちにそんな予約、入ってません」


👤とうこ:やばいやばいやばい

👤neru:ついに現実から消され始めてる

👤きぬ:この民宿、最初の配信と部屋の構造ちょっと違ってない?


宿を追い出され、夜道をとぼとぼと歩く水島。

民宿から少し離れた舗装されていない山道を登りながら、ポツリとつぶやく。


「……まいったな。あの人、完全に俺のこと知らなかった」

「でも予約履歴はあるし、動画も残ってる。……っていうか……本当に、残ってたっけ?」


足は、無意識のうちに“あのポスト”のある広場へ向かっていた。

電灯のない闇の中、懐中電灯の先に“赤いポスト”が浮かび上がる。


だが、ポストの扉は開いていた。


水島がゆっくりと近づく。

中には、一通の白い封筒が入っていた。


【水島宛】


──手が震える。

ゆっくりと封を切ると、中には小さな便箋が一枚。


「ずっと待っていました。

次は、あなたの番です」


「願いを叶える役目を、あなたに渡します」


水島が顔を上げる。視線の先、暗闇の中に何かがいる気配。

画面が不自然に揺れ始め、ピントが外れる。


「……誰か、そこに……」


👤さえこ:今、背後に人影見えなかった?

👤rei:最後の声、水島さんじゃなかったよね

👤イサム:配信、強制的に落ちたっぽい。なんかヤバい


カメラが急に強制停止するように暗転。

“異常事態調査室”のロゴがいつもより遅れて表示される。



【翌日】――

【翌日】――

水島の配信アーカイブは冒頭の30分だけが残されていた。

映像の乱れとともに強制終了した後半パートは、再生すらできない。


「赤いポストの場所がわからない」という視聴者の報告が相次ぐ。

村名を検索しても、地図上に存在しない。

投稿者のアカウントも、SNS上から跡形もなく消えていた。


翌日、異常事態調査室の公式Xには、

水島以外の誰かが投稿したとしか思えない写真が一枚、投稿されていた。


ポストのあったはずの広場。

そこには、古びた木札が一本だけ立っていた。

木札には、こう書かれていた。



「役目は 連鎖するものなり」



「異常事態調査室」登録者数:49,702人 → 51,532人(+1,830)

投稿動画『叶え屋ポスト』視聴数:91,110回


《動画コメントより(抜粋)》

👤七転ゆめこ

あのポスト、無機物なのに“意志”がある感じして怖すぎる


👤しらたき隊長

“願うたびに失われる”って言葉、実際に映像で見ると心臓に来る……


👤kaede

最初の投稿者が“叶える役”だったって気づいたとき背筋が凍った


👤白黒ページ

「記憶ごと持ってかれる」系、いちばんダメなやつ……配信してるのに“忘れられてく”のリアルすぎる


👤ハルネノート

木札の言葉、「連鎖するものなり」って神職みたいでほんとにいや……なんでそんな句読点ない書き方なん……

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