第19話 『数字が増える日記』

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──それは、一冊の日記帳から始まった。


「今日は、ちょっと変わったものを見つけたっていうDMが届いてます」

「送ってくれたのは、大学生の方ですね。近所の古本屋で“誰かがつけていた日記”を買ったそうなんですけど──」


「中を見て、すぐにおかしいと気づいたらしいです」


【DM本文より】――

「日記帳といっても、誰かの生活の記録が書かれているわけではありません。

開くと、毎ページにただ“数字”が一つずつ記されているんです。


1、2、3、4……

何十ページも、ただ数字がひたすら増えていくだけ。


最初は変な趣味の持ち主かと思ったんですが……

ふと、“これを書いたのが誰なのか”が、まったく分からなくなったんです。

しかも、その正体が「いまも書き続けている」と思うと、ぞっとして……


一番怖かったのは、僕がその日記を手に入れた翌日、“次の数字”が新しく追加されていたことです」


「手に入れたとき、最後は“84”だった。

でも翌朝、ページをめくると“85”が、前と同じ筆跡で書き込まれていたんです」


【検証配信】――

水島は投稿者から日記を譲り受けるため、とある山間の町に居た。

投稿者が日記を手に入れたとされる“○○町”には、小さな民宿が一軒だけある。


「いちおう予約取れたんで、例によって現地から配信してます」

「今日は部屋の中でやります。明日、昼に周辺をちょっと回ろうかなって感じですね」


配信画面に映るのは、古びた布張りの小さな日記帳。

水島が中をめくると、「105」で止まっている。


「これが例の“数字だけの日記”。実物、めっちゃ不気味です。しかも、昨日も確認したけど──」

「……106、追加されてるな。やっぱ今日も書かれてる」


👤ふじこ:え、リアルタイムで増えてるってこと?

👤sen:投稿者の話ガチだったんだ……


【翌日】――

日記の数字は「107」になっていた。

だが、その日の夜、水島は奇妙なことに気づく。


「なんか今日、コメント欄の人……少なくない?いや、数字は変わってないけど」

「ていうか、いつも見に来てくれてる“みおさん”とか、“ピーナツ先生”とか、いない……?」


コメント欄も少しずつざわつく。


👤しの:名前覚えてる視聴者がいないって怖すぎない?

👤KZK:俺、ずっと見てるけど“ピーナツ先生”知らないぞ……


翌朝、日記の数字は「108」。


さらにその夜、水島が民宿の風呂場から戻ってくると、部屋の様子が少し違っている。

小物の配置、掛けていたタオルの位置──

「誰かに触られたような違和感」。


そして、日記は「109」になっていた。



【翌日】――

水島は、ページをじっと見つめたまま、つぶやく。

「ひとつ気づいたんです」


「これ、ずっと数字が増えてるって思ってたけど──」

「いや、もしかして……カウントアップじゃなくて、“カウントダウン”だったら?」

水島が日記をめくって、カメラに映す。


「最初のページの“1”は、左上に書かれてた。で、次は中央寄りに“2”……」

「で、“109”は──ほとんど右下、ページの端ギリギリに書かれてる」


「つまり、“数字が増えてる”んじゃなくて──“ゴールに向かって近づいてる”んじゃないかって」

「文字がだんだん右下に寄っていくのは、たどり着いてるってことなんだ……“終点”に」

「そして、今日はもう…もう、書く場所がないんです」

「つまり日記の終点。……もしかしたら、“終わりの場所”」


👤えむこ:ページの右下って、終点ってこと……?

👤黒ぬこ:文字が書けない=死……そういうこと?

👤さえこ:水島さん、やめて……ほんとに……


水島は、深く息を吸い、最後のページをめくる。


──そこには、びっしりと書かれた「0」の文字。

余白という余白すべてが、「0」で埋め尽くされていた。


その瞬間、部屋の照明が“パチン”と音を立てて消え、

カメラが一瞬だけ暗転。


数秒後、映像が戻ったとき──そこに、水島の姿はなかった。


代わりに、フレームの端から“誰か”の手が伸び、

ゆっくりと、日記を閉じる。


配信はそのまま、途切れるように強制終了した。


👤やばいって!!

👤水島さんいなくなってない!?

👤今の手、誰の……!?


【翌日】――

「昨夜の配信、最後までご視聴ありがとうございました」

「気づいたら、日記帳がなくなっていました。部屋を探しても見つかっていません」

「“0”で終わったその瞬間から、何かが変わった気がしています。ご心配なく。水島は無事です」


視聴者の間では、「誰が“0”を書いたのか」「あの手は誰のものか」などの考察が加熱していく。

だが、日記帳そのものは、まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消えていた。


そして深夜──

「異常事態調査室」のDMに、1件のメッセージが届く。

送信者は、例の“大学生の投稿者”と同姓同名。

しかし、アカウントは新規で作られていた。


「日記、また戻ってきました」

「でも、変なんです……裏表紙に、僕の名前が書いてあるんです」

「前はそんなのなかったのに……」

「……正直、怖くてもう開けられません」

「このまま、封印しようと思います」


【その夜の配信】――

水島は、静かに語りかける。


「日記に名前が書かれるって──もう、その人が“次の持ち主”になったってことなのかもな」

「“0”って、終わりじゃなくて……“リセット”だったのかもしれない」


「また“1”から、別の誰かが数えはじめる。まるで、バトンみたいに」


コメント欄もざわつく。


👤みお:つまり“書かれた人間”が、次のターゲットってこと……?

👤れん:名前を書かれた時点で、もう逃げられないんだ……

👤KZK:これループしてんじゃない?水島さんも、そのうち……


水島はうつむき、ぽつりとつぶやいた。


「……俺も、最後のページを見たとき、一瞬だけ──“自分の字”が混ざってる気がしたんだよ」

「……怖いのは、それが“いつ書かれたのか”、まったく覚えてないことだけどな」


「気のせい、だといいけど」


そう言って、水島は日記の画像を配信には映さず、配信を静かに終了する。


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投稿動画『数字が増える日記』視聴数:94,012回


《動画コメントより(抜粋)》

👤あおはる:数字って普通安心するのに、不気味に見えるのすごい構成だった

👤未明:カウントアップと見せかけてゼロに落ちるの怖すぎる

👤ひなた:これ“触れた人が書き手になる”系の怪異じゃない?

👤のの:最初の投稿者も、あれ別アカでつぶやいてるのやばくない?

👤コメコメ:カウント終わったら“連鎖”するの、ほんとにいや……次は誰?


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