第5話【喋る公衆電話②】

水島は帰宅後、アーカイブを繰り返し確認した。

だが、肝心の“通話音声”が残っていなかった。


受話器を持つ水島の姿、彼の驚いた表情、動揺する様子は映っている。

だが、相手の声だけが、きれいに“抜け落ちて”いた。


「そんなはずはない……」


何度再生しても、電話口からの音声は一切入っていない。

ただ、自分の反応だけが空々しく残る。


コメント欄では視聴者たちが考察を始めていた。

『声が消えてる』『マジで台本じゃなかったの?』『あれガチで焦ってたな』



「……見たくせに」

「見たくせに」


あの声が、頭の中で反響する。


水島は思い出したくない記憶を思い出しかけていた。

──実家の物置部屋。

祖父が死ぬ前に「絶対に開けるな」と言っていた場所。


──あの日、こっそり開けて、“何か”を見てしまった。


ずっと封印してきた記憶。




「異常事態調査室」登録者数:151人 → 160人(+9)

投稿動画『喋る公衆電話』視聴数:37回


TikTokの切り抜きがじわじわと伸び、

スレでは新たな考察が始まっていた。

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