第4話【喋る公衆電話①】

「異常事態調査室」登録者数:151人(+23)


水島佑介は、スマホ片手に掲示板のスレを眺めていた。


【実話系】喋る公衆電話

・〇〇区△△町〇‐〇の電話ボックス

・深夜に「9999」にかけると“自分の声”が返ってくる


「……なんだそれ」


最初はありふれた都市伝説かと思った。だが、妙に気になって仕方がない。

“自分の声で返ってくる”という奇妙なフレーズ。

そして、具体的すぎる場所と番号。


水島はバッグに撮影機材を詰めながら、ゆっくりと呟いた。

「……次はこれだな」



その電話ボックスは、住宅街の裏手にひっそりと建っていた。

夜道のなかにポツンと立つ緑色の箱。

明かりはついているが、使われている気配はない。


「うわ、本当にあった……」


水島はスマホを三脚に取り付け、配信を開始する。

コメント欄には少しずつ視聴者が集まりはじめていた。


「こんばんは、異常事態調査室です。今回は、ネットで話題になっていた“喋る公衆電話”を検証しに来ました」


夜風が吹くなか、電話ボックスの扉を開ける。

中は意外にもきれいで、埃も少ない。

受話器を持ち上げ、小銭を投入。

数字キーをゆっくりと押す。


──9、9、9、9。


受話器からは無音。しばらく待っても何も聞こえない。


「……やっぱ、こういうのは一発じゃ来ないか」


一度受話器を戻し、もう一度小銭を入れ、再度「9999」を押す。

今度は、ワンコールぶんの時間の後に、“何か”が出た。


「……お前だろ? 見てたよな」


水島の背筋が凍る。

その声は、自分自身の声と酷似していた。

だが微妙に違う。感情の起伏がなく、機械のように冷たい。


「……隠してるんだろ、あそこに」


次の瞬間、水島の顔が強張る。

配信のコメント欄がざわつきはじめる。


『今の声、水島さんの声に似てた』

『でも、ちょっと違った』

『何て言ってた?』


水島は言葉を失ったまま、無言で通話を切る。


──次の瞬間、配信もぷつりと途切れた。

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