第3話【深夜の開かずの踏切3】

「……あ?」


水島が声を漏らした瞬間、スマホの画面が再び映し出す。


そこに映っていたのは、さっきまでの自分自身。


だが違和感があった。

映像の中の水島は、明らかに“過去の自分”のようだった。

服装は同じなのに、表情も動きもリアルタイムのものではない。


しかも。

カメラの中に映る踏切は、現実のそれと違っていた。

現実では上がっていたはずの遮断機が、映像内では完全に下りていた。

そしてその中央。


白いワンピースを着た女が、踏切の真ん中に立っていた。

顔ははっきりと見えない。

ただ、両腕をまっすぐ前に伸ばし

──水島に向かって、ゆっくりと手招きをしていた。


「っ……」


水島は無意識に後ずさった。

その瞬間、耳がキーンと鳴り、足元が崩れるような感覚に襲われる。

膝を地面についた。


映像はまだ回っている。

だがカメラの中の女は、手招きをやめない。

まるで、画面越しの世界から“こちら”を見つけたと言わんばかりに。


水島の視界がにじむ。

カメラは震えながら、地面を映し出していた。


──次の瞬間、配信はブツリと途切れた。


【深夜の開かずの踏切──了】


【数日後】


水島は、あの夜の配信アーカイブを何度も確認した。

配信自体は正常に保存されていた。だが、どうしてもおかしい。


自分の声、足音、周囲の風景は映っている。

だが――あの瞬間、確かに鳴り響いたはずの踏切の警報音は、

記録されていなかった。

もちろん、遮断機が下りる描写も映っていない。

そして、画面の中の“女”も、存在しなかった。


視聴者コメント欄に残された「後ろ、動いてない?」の文字だけが、その出来事の名残のように残っていた。


違和感を拭いきれないまま、水島はあの踏切について調べ始めた。

やがて、地元の古いブログ記事と、十年前のネット掲示板の断片的な記録を見つける。


――その踏切では、かつて若い女性が列車に轢かれて亡くなっていた。

事故が起きたのは深夜2時台。

本来、ダイヤ上では電車が通る時間ではなく、

運行記録にもその時間帯の通過は確認されていない。


だが、現場の目撃者は証言している。

「遮断機が下りていた」「警報音が鳴っていた」

そして、「電車が来た」と。


中には、「列車ではなく、もっと別の“何か”だった」という不明瞭な証言も混じっていた。

彼女が“呼ばれて”踏切に入ったのではないか

――そんな噂が地元で静かに語り継がれていた。


記事には、事故当時の目撃証言として、


白い服の女性が、踏切の中央で立ち止まっていた。

という一文だけが、妙に浮かぶように書かれていた。


水島は背筋をぞっとさせながら、再びアーカイブを再生する。

そこには、淡々と踏切を映し続ける自分の姿だけが、静かに残されていた。


「異常事態調査室」登録者数:128人(+1)

投稿動画『深夜の開かずの踏切』視聴数:25回

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