第2話【深夜の開かずの踏切2】

踏切のある場所は、都心から少し外れた住宅街の外れ。

最寄り駅から徒歩で15分ほど歩いた先に、それはあった。


時刻は午前3時3分。

踏切には遮断機があるが、通過する電車の気配も音もまったくない。

古びた標識と、うっすら錆びた柵。その奥に、まっすぐ伸びる線路。


周囲に人の気配はなく、近くの家々もすべての窓が眠りについているようだった。

都心から少し離れただけで、こんなにも暗くなるのかと、水島は小さく不安を覚える。


水島はスマホを三脚にセットし、配信アプリを立ち上げた。

光量を最小に絞ったリングライトが、うっすらと彼の顔と背後の踏切を照らす。


視聴者数は「1」。

通知を見て入ってきた奇特な視聴者だろう。


「こんばんは、『異常事態調査室』です」


「今回は、5chで話題になってた“開かずの踏切”に来ています。深夜3時、ここで“何か”が映るとか、声が入るとか……そういう噂です」


内心では、足元の砂利のきしみ一つにも敏感になっていた。


(風、止んでるな……)


虫の声もなく、ただ、線路の先に街灯が一つだけ、滲むように光っている。


そもそも、“深夜の開かずの踏切”という言葉に、

水島は小さな引っかかりを覚えていた。

踏切が“開かない”というのは、昼間ならともかく、深夜に?


──けど、ここは“何かが通る”ってことなんだろう。


そのときだった。


カン、カン、カン――


唐突に、踏切の警報音が鳴り響いた。


「いや、電車なんて……」


この時間に走る電車など、あるはずがない。

にもかかわらず、線路の奥、暗闇の先に“光”が現れる。

それは列車のヘッドライトのようでありながら、

異様なほど鈍く、重たく滲んでいた。


画面左下に、コメントがひとつだけ流れる。

『後ろ、動いてない?』


水島は一瞬、コメントの意味を理解できなかった。

反射的にカメラの横に目を向けたが、背後には誰もいない。


ふと、映像を確認すると、画面の右端に黒く歪んだ“何か”の影が映り込んでいた。

(……いる)


視界が揺れ、スマホのカメラが勝手にズームし、ピントが合わなくなる。

そして画面が、ふっと暗転した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る