異常事態調査室

@jyanjyabaribari

第1話【深夜の開かずの踏切1】

「今日の動画、再生数78回……か」


薄暗い部屋で、モニターに映るYouTubeの画面を見つめながら、

水島佑介はため息をついた。


動画のタイトルは

〈【心霊スポット】SNSで話題の廃トンネルに一人で行ってみた〉。

編集もサムネも自分なりに工夫したつもりだが、結果はいつもと変わらない。

高評価2件、コメント0。再生数は親戚の法事の人数以下。


「副業って、こんなにも虚無なのか……」


昼間は営業職として、そこそこの成果を上げている。

だが、本当にやりたいのはそっちじゃない。

佑介は30代を目前に「副業で食っていく夢」に賭けて、

2年前からYouTubeチャンネル「異常事態調査室」を立ち上げていた。


TikTokや5chのスレ、都市伝説系のまとめから視聴者の指令(投稿)を拾い、

それを実行・検証するという企画。いわば、“怖い場所に行ってみた系”だ。


──だが、現実は残酷だった。

動画編集に徹夜しても、コメント欄はいつも静まり返っている。


──今日も収穫なし。寝るか……。


そう思いながらスマホでスレ巡回をしていると、ある書き込みが目に留まった。


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【実録】東京・○○区の“開かずの踏切”って知ってる?

深夜3時、絶対に渡っちゃダメなやつ。

実際に行った人が、配信中に「声」拾ってる。

映ってないけど、“誰か”が画面越しに喋ってくる。マジでやばい。

TikTokにも出回ってた。


誰か検証してきて。

深夜3時、録画必須。一人で。

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その最後の一文を見た瞬間、水島の脳内で、

自信のチャンネル名がふっと浮かんだ。

──「異常事態調査室」。


べつに命令されたわけでもない。ただの匿名の一文にすぎない。

だけど、こういう雑な書き込みが、

水島にとってはまるで“自分に宛てられた依頼”のように思えてしまう。


「……指令って、これくらいでいいんだよな」


そう呟くと、水島は三脚とスマホ用のライト、

予備バッテリーをバッグに詰め込んだ。

そして――午前2時40分、自宅マンションのドアが静かに閉じられる。


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