第7話 相棒の見解
あいもかわらず目の前でじゃれている真桜と蒼梧の2人を見ながら、ナオは目の前のブラックコーヒーに口をつける。
『この2人マジでなんで付き合わないの?俺が騙されてるだけ?』そう考えながら疑問をぶつける。
「蒼梧と真桜ちゃんって2人の時も横並びで座ってる?」
「うん。そっちの方が無駄がない」
「この人、直ぐにめんどいって言うから、口に押し込まないと」
「食べる行動ってめんどくない?なんでお腹って減るんだろ」
「結城だけには絶対手料理作りたくない」
「え、何で?」
「え、当たり前じゃん。せっかく作った料理を『食べるのめんどい』って言われたら嫌だし」
「じゃあ絶対言わないから今度家に来て作って」
「コンロ一口だったよね?調味料ないし、作りにくい」
「今度・・・3人でコストコでも行く?」
「え、行きたい!ナーさん会員なの?」
「まぁね」
「俺はめんどいから行きたくない」
「なら来なくていいんじゃない?」
「何言ってんの。2人でなんて行かせるわけないじゃん」
「え、理不尽」
そんな2人のやり取りを聞きながら『台所事情を知ってるって事は、部屋に出入りはしてるんだな』とまたもブラックコーヒーに口をつける。
『マジで俺だけが付き合ってるって知らされてないって事はないよなー』と思うも、様々なコミュニティに配置しているスパイから報告はないので本当に進展していないのだろう。
謎だなと思いながらインスタでコストコ情報を調べ、自分が認めた相棒が懸想している女を見つめる。
一ノ瀬真桜の存在は入学当初から知っていた。
品のある顔立ちはとにかく目立ち、彼女を含めた数人と勉強会をした時に抱いた実際の印象は、想像していたものとは違った。
美人は大抵性格がきつかったり傲慢であるが、一ノ瀬真桜は控えめだった。
控えめだが誰とでも楽しく話せ、自虐もいとわない。
『この子、見た目よりもずっと損する性格だ。悪い男に引っかかったりしなきゃいいけど』それが佐伯ナオの一ノ瀬真桜に抱いた印象だった。
入学当初はとにかく人脈を増やしたかったので、様々な人に声をかけた。真桜に声をかけたのは一回きりではあるが、その印象は強く残っている。
『だけどまさか・・・蒼梧が一ノ瀬真桜とはねぇ』
背もたれに身体を預け、じゃれあう2人をしげしげと見つめる。
今年になってやっと見つけ出した自分の相棒が、損するタイプの美人に執心していると知ったのはミーティングのみで早く部活が終わった日だった。
ナオは、今でもあの時の瞳の色を覚えている。普段は退屈そうに何の感情も写さない蒼梧の瞳が、明確な意思を持っていた。
好き勝手言われている真桜を颯爽と攫って行った情景は酷く心に残った・・・思わずアシストしてしまうほどに。
それからナオは相棒の初恋の成就のために外堀を埋めまくっている。
彼女の友人、クラスメイト、部員。
最初は『面白そう』と好奇心とお節介が半々だったのだが、今は絶対に上手くいってもらわないと困ると思っている。
真桜が通っている塾の男に言い寄られていると知った時の結城蒼梧のメンタルがやばかったのだ。
試合直前まで『もう全部めんどい』、『本読むのも嫌だな』、『ずっと寝続けたい』、『不労所得したい』などとめちゃくちゃなわがままを言い出したのである。
苦肉の策で試合前日に、部員全員で真桜に頭を下げに行き・・・。
『試合見に来て下さい!』
『結城のテンション上げて下さい!』
『結城のダンクを見たいと言ってあげて下さい!』
『お願いします!』
と頼み込んだ結果、何とかメンタルは回復したわけである。ちなみに余談ではあるが、真桜は運動部男子10人に頭を一斉に下げられた事がトラウマになりかけていた。シンプルに迫力が凄いのである。
真桜はその日は友人達とショッピングの予定であったが、予定をキャンセルして試合へと足を運んだ。
私服の可愛い真桜に『結城ー!結城のダンクが見たい!』と棒読みに近い状態で応援された蒼梧のテンションは上がった。
上機嫌にだるそうに試合に挑む相棒を見て、ナオは確信した。
『この子がいれば、天才の扱いも少しは楽になる』と。そういうわけで、ナオは心から相棒の初恋を応援している。
そこに打算がないわけではない。人が何か行動を起こすときに打算を一切持たないということは難しい。そこをずっと痛感しているナオは、じゃれている2人を見てスッと目を細めた。
『どうでもいいから早く付き合ってくれないかな・・・マジで』
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