第4話 先に意識し始めたのは
「これ、ちょっと前に出た新商品なんだってー。美味しい?」
「んー・・・チョコは何でも美味しい」
「え、食レポしてよ。あげ甲斐がないなぁ」
「口の中でとろける」
「うん、当たり前。チョコだからねぇ?」
本に目を向けている蒼梧の口にチョコレートを放り込み、真桜は自分用に個包装をやぶっていた。
授業開始までには食べ終われるだろうと思いながら、本を読んでいる隣の男を見ていると、目の前に影が落ちた。
選択授業の中で他にも知り合いが出来たので、誰だとうと思いながら影の持ち主を見上げる。
「あ、島根くん」
「それ新発売のやつだよな?前から気になって探してたんだけど、見つけられなくてさ」
「そうなの?あ、よかったら食べる?美味しいよー」
「いいの?催促したみたいで悪いな」
「大丈夫だよ、はいどうぞ!」
真桜は箱から個包装のチョコレートを指先でつまみ、差し出された手のひらに置こうとした瞬間だった。
「ダメ、コレは俺の」
「は・・・?」
「え?」
隣の怠惰の男・・・蒼梧が真桜の手首を握っていた。上背がある分ももちろん、手足も長い蒼梧はそのまま真桜の細い手首を自身の方へと引き寄せる。
どんな表情をしているかは真桜からはうかがえないが、目の前の席の主が引きつった顔をしながら『じゃあいいよ』と情けない声を出し、その場から離れて行った。
「さっきあげたじゃん」
「食べ終わった」
「噛んだでしょ?虫歯になるよ」
「俺、歯磨きはちゃんとする。めんどくさーと思うけど、ちゃんとやってる」
「自慢気に言っているけど・・・当たり前だからね」
褒めてと言わんばかりに自慢気に言われたが、真桜は当たり前だとサラッと流す。だが、それよりも握られたままの手首が気になっていた。
「食べさせて」
催促するように蒼梧の長い指がチョコレートの包装を握っている真桜の指に絡む。
末端冷え性である真桜の指の温度を感じ、蒼梧は『冷たっ』と小さく呟く。
指はいまだに絡められたままだ。
「いつもみたいに食べさせて」
「いや・・・あたしいつも食べさせてないよ?むしろそれしてるのナーさんだよね?」
真桜の言っている『ナーさん』とは・・・佐伯ナオのことだ。
真桜の言っていることもスルーし、ジッと真桜を見つめながら指を握って所望している。
そんな出来事に首を傾げながらも、蒼梧の口へとチョコレートを運ぶ。
だが・・・普段はたやすく開かれている唇が、今日に限って某うさぎのキャラクターの様に閉ざされている。
「え?いらないの?ほら、あー」
その言葉を聞いて蒼梧はフッと唇をゆるめ『あ』と口を開けた。そこにチョコレートを差し入れると、蒼梧の唇と真桜の指がたしかに触れる。
それには真桜もキュンっとしてしまった。
「おいし。ありがと」
「どういたしましてー」
「今度は噛まずに味わって食べる」
「なんで噛んじゃうの・・・」
蒼梧は口の中でチョコレートを溶かしながらも、こんな大胆な行動にも関わらず、何を思っているのかわからないほど普通の行動な真桜の様子をジッと見つめていた。
『コレは・・・俺の。誰にもあげたくない』
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