第3話 鍵の少女、封印の記憶
魔導学院・医療棟。
白く輝く治癒結晶の光が揺れる病室で、天城叶翔は、ぼんやりと天井を見上げていた。
左腕の激痛は消えていた。
爆発に巻き込まれたはずの傷も、どこにもない。
だが、それ以上に――腕に刻まれた《光の紋章》が気がかりだった。
「これは……俺の“選択”に対する……結果なのか……?」
その時、扉が静かに開いた。
「お目覚め? バカ翔」
銀髪の少女――セレス=ヴァルグレイス。
彼女はどこか怒ったような顔で、ベッド脇に椅子を引き寄せた。
「飛び出して、左腕失って、挙げ句の果てに謎の光紋つけて――
もう、何やってんのよ!」
「……ごめん。でも、あの時、俺が選ばなかったら……誰かが死んでた」
その答えに、セレスの瞳が一瞬揺れる。
「選んだのね、あなた……」
「え?」
セレスは立ち上がり、腕をまくると、自身の左肩の裏を見せた。
そこには――同じ《紋章》が、微かに輝いていた。
「鍵は、開いたのね。あなたの選択によって」
「……鍵?」
セレスは少しだけ目を伏せ、そして語り始めた。
◆
彼女の家系――“ヴァルグレイス家”は、遥か昔、世界の全てを支配しかけた存在の末裔。
記録にはこうある。
《絶対神・レティア=ヴァルグレイス、その記憶と意志は、次代の鍵となるべく分裂され、封印された。
選定者が現れる時、その鍵は再び目覚める。》
「私たちは代々、“何かを開く存在”として受け継がれてきた。
でも、私自身はそれが何を意味するのか、知らなかった。
……あなたが紋章を得るまでは」
「俺を……“開く”鍵、ってこと?」
セレスは小さく頷いた。
「あなたの選定因果――“未来を選び、固定する力”は、
本来なら暴走すれば世界そのものを崩壊させる。
でも、私がそばにいる限り、あなたの選択は“受理”される」
「……つまり、俺が選べるのは……君がいるから?」
「そういうこと。むかしの誰かが、そう設計したみたいよ」
セレスは笑った。
どこか、誇らしげに。
どこか、寂しげに。
◆
その日の夜、叶翔の夢の中で、再びあの“声”が響いた。
『ようやく、鍵と扉が揃ったのね』
夢の中に立つのは、少女のような姿をした光の幻影。
『私はレティア。絶対神であり、君たちの導き手。
……だけど、もう私は消えた存在。今は、記憶だけの残滓』
叶翔は思わず問い返す。
「なら、俺に何を求めてる?」
『ただひとつ。
“選びなさい”。世界が再び迷わぬように。
そして、セレスを……どうか守って』
◆
目覚めた時、セレスはもう病室にいなかった。
だが、彼の左手には、新たな線が刻まれていた。
それは“選ばれた未来”が、確かに動き出した証だった。
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