第2話 選定の眼、未来を見る少年

 


――昼下がりの青い空。

その下に広がるのは、魔導機と魔術文明が融合した都市アーク=セントリア


整然と敷かれた浮遊街路。

その片隅で、ひとりの少年が、ぼんやりと空を見上げていた。


「また……見えた。あの崩壊の未来」


天城 叶翔(あまぎ かなと)――15歳。

普通の学生として暮らしていたはずの彼は、ここ数か月、誰にも言えない異変に苦しんでいた。


それは、“未来の幻視”。


ただの予知ではない。

彼の中に存在する何かが、無数の未来因果を見せつけてくる。


数秒後に起きる事故。

数日後に泣く少女。

数年後に燃え尽きる都市。


それらすべてを、彼は【選ぶことができる】。


いや、正確には――


「俺が“どれを選ぶか”で、未来が決まってしまう……」


 



「かなとー! また上の空でしょ!」


背後から飛んできた軽やかな声。

そこには、銀髪の少女が立っていた。


「セレス……遅刻しそうなんだけど?」


「いつもそんな顔してると、老けるわよ? 15歳なんだから若さ出していこ!」


セレス=ヴァルグレイス。

魔族と人間のハーフ。

そして、叶翔の幼馴染であり――何よりも重要な“存在”。


 


翔は未だ知らなかった。

彼女が、自身の力を制御する「鍵の末裔」であることを。


 



その日の午後。


魔導学院の演習ホールで、事故が起きた。

暴走した実験体の魔導獣が、生徒たちに襲いかかったのだ。


時間が止まったような緊張。

生徒たちが叫び、逃げ惑う中――叶翔は見た。


《このままでは、3人死ぬ。セレスも傷を負う。》

《……だが、ここで“右に跳ぶ”選択をすれば、誰も死なない代わりに、俺が左腕を……》


数パターンの未来が、頭の中に同時に流れ込む。


 


そして――選んだ。


「……俺が行く!!」


瞬間、叶翔の体が自ら跳び出していた。

次の瞬間、爆発音と共に、彼の左腕が鮮血に染まる。


「かなとおおおおお!!!」


セレスが叫ぶ中、叶翔は静かに目を閉じた。


『これが、俺の選択。間違っていない……はずだ』


 



その夜。

叶翔の夢の中に、“少女の影”が現れた。


『あなたは……また選んだのね』


声だけが響く。

その影は、確かに――どこか懐かしい温もりを持っていた。


『あなたが選び続けるなら……私たちは、また目覚めるかもしれないわ』


「……君は、誰?」


『私はレティア。

あなたが選ぶべき未来の、最後の鍵。』


 



目覚めた叶翔の腕には、完全に回復した左腕と、

奇妙な“光の紋章”が刻まれていた。


それが、彼が“選定者”としての第一歩を踏み出した証だとも知らずに――

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