後日談

後日談:それぞれの“日常”と、その果てに

◆ 天城 静 ― 全を統べる者として

神域の中心、かつて“完全なる全知全能オムニタイム”が発動された場所。

静は今や、力そのものに近い存在となりながらも――神としての仕事はほとんどしていなかった。


「世界は、もう勝手に回るようになったわ。人間って、案外たくましいのよね」


それでも時折、静は人々の夢に現れ、囁くように助言する。

力ではなく、言葉で――その在り方こそ、彼女の選んだ“全能の使い方”。


レティアの言葉を借りれば、それは「いちばん強くて優しい無干渉」。

かつての兵器としての自分が、そう在れる日が来たことを、静はただ静かに受け入れていた。


◆ レティア=ヴァルグレイス ― 絶対神にして“鍵”の少女

今や神域の「意志」であるレティアは、かつてのように命令する必要も、支配する必要もなかった。

だが、静の“鍵”としての役割は今なお続いていた。


「静、ちゃんと寝てる? 神でも体は冷えるのよ」


そう言って、彼女は日々静の側に立ち、その心のバランスを取り続けている。

力こそ持たぬが、唯一静に干渉できる存在――それが、レティアであり、

世界の最奥に立つ“最高位の神”としての意味だった。


けれども、彼女の表情は昔よりもずっと柔らかく、年相応の少女のようでもあった。


「神様って、案外退屈。でも……静がいてくれるなら、いいかな」


◆ 天城 蒼 ― 世界に立つ人間として

蒼は“超因律の継承者”として、特別な存在になった。

だが彼は、神にも英雄にもならず、ひとりの“人間”として生きることを選んでいた。


リリスと共に旅をし、ときに人を救い、ときに喧嘩して酒場で笑う。


人間であるがゆえの限界も、痛みも、彼はすべて抱えながら、

それでも「自分で選ぶ」ことの価値を人々に伝えていた。


◆ リリス ― 魔導書の娘、今は蒼の旅の隣に

かつて“知識の器”とされた少女は、いまや“心を持った魔法使い”として世界を旅する。


「蒼、次はどこ行く? 北の港町でちょっとした魔道異変が起きてるらしいよ」

「……またか。今度こそ、静かに温泉に行きたいんだけどな」


そう言いながら、ふたりは歩いていく。

かつて神と神が争ったこの世界を、人として渡っていく。


そして世界は――選択され続ける。

誰かの願いが、誰かの手で叶えられる世界。

誰かの涙が、誰かの力で拭われる世界。


それは、かつて“全能”が願った、たったひとつの「平凡」で「自由な」未来。


『叡智なる半全能』

― 完全終幕 ―

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