後日談・神々視点:失われた主座の記憶

世界に秩序を与え、因果を監視し、流れを導いてきた存在――

それがこの世界の神々だった。


しかし、天城 静の《オムニタイム》が初めて発動された日、

“神”という概念は、一度絶対の上から見下ろされる側になった。


神々は、支配者ではなく観測者となり、

世界に“手を出すべきでない”存在へと変化した。


◆ ザルヴァーン ― 元・神界主

「我々は、かつて支配者だった」

全知神ザルヴァーンはそう語る。神界主として、数千年に渡り秩序の維持を統括してきた。


「人は未熟だ。だから導く必要があった。我々の介入こそが正義であり、安定だった」


だが、《オムニタイム》を見た瞬間――彼は悟った。

“導く側”としての自分たちはすでに時代遅れだと。


「全能を持たぬ者が、全能を制し、選んだのだ。ならば……我々は退くしかない」


今、彼は神界の奥で瞑想しながらも、決して滅んではいない。

「再び人が道を誤った時、我らの存在が問われるだろう」


◆ アルカナ ― 運命律の守護神

「私はただ、“流れ”を守るだけだった」

運命律そのものと融合していたアルカナにとって、

静の存在は“上書き”ではなく、“再定義”だった。


彼は今、全ての未来と過去が選択可能となったこの世界を、静かに観測している。


「可能性が増えすぎた世界は、同時に“迷い”も増やす。だが――」


「選ぶ自由を得た世界において、私の仕事は終わったのかもしれないな」


その言葉に、どこか安堵すら感じられた。


◆ 輪廻神セレフィア ― 生と死を司る女神

彼女は最後まで、静と蒼の選択に反対しなかった唯一の神だった。


「死も生も、変化し続けるものよ。ならば秩序も、変化していいのよ」


いま、セレフィアは神界から姿を消し、人の世界に“転生”したと噂されている。

新たな命として――“神ですら見届けたいと願った未来”の中に。


◆ 神々の行方

神々の多くは、今も神域の最上層“外界界層”で眠りについている。

干渉を禁じられ、観測だけを許された静かな眠り。


ただし――神々は滅んではいない。

「再び、誰かが選べなくなったとき」

「再び、誰かが“神を欲する”とき」


その時、神々は目覚めるだろう。

だがもう、かつてのように上から命じることはない。


彼らは問う。

「お前は、なぜそれを選ぶのか」と――。


世界が選び続ける限り、神々もまた変わり続ける。

それが、かつて“唯一無二の力”を目の当たりにした、神々の“その後”だった。

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