第9話 絶対神計画始動と、“選ばれる者”

──神界・中央評議院、オーダー中枢。


七柱の上位神とそれに連なる三十三柱の高位神が集う、天界最大の秘密会議。


「……天城静は、制御不能な存在ではあるが、その知性と律法干渉能力は“資産”だ」

「排除ではなく、“取り込み”を前提に方針を転換するべきだと、我々主理会議は判断した」


その言葉に、神々は静かに頷いた。

「絶対神計画(プロジェクト・デウス)」──


それは、完全なる全知全能を“神界の統治中枢”に吸収し、神界主導の再秩序構築に用いるという狂気の案。

この世界に“真の創造主”を後付けで作り出し、支配体制を盤石にするための――神々の保身であり、再編でもある。


「“神の座”は、我らが決める」



その頃、王都・離宮。


静は、フィロスの導きにより新たな“理解”に到達しつつあった。

全知全能に足を踏み入れ始めている今、彼女の精神には“世界の構造そのもの”が透けて見え始めている。


しかし。


「……来ます。神界からの直接介入体。形式上は“使者”ですが、構造的には強制干渉術式──これは、“捕獲”が目的です」


静の予測通り、神界から降臨したのは「調律神官」と呼ばれる精鋭たち。

対話も交渉もなく、ただ“所有権の譲渡”を求めてきた。


「天城静の能力は、もはや個人に属すべきではない」

「神界の所有とする。引き渡せ。従えば、主も従者も生かしておこう」


静が前に出ようとした、その時――


「待ちなさい」


静の前に立ったのは、レティアだった。


「……ご主人様?」


「私の“しもべ”を誰の許可で所有物扱いしてるのよ」


レティアの声が冷たく、深く、世界を圧するように響く。


調律神官たちが一瞬たじろぐ。

彼女の内に、異常な“魔性”が湧き上がっていた。


「この反応……まさか……!」



──その瞬間、レティアの身体を中心に、黒と金の魔紋が爆発する。


それは、魔族王家ヴァルグレイスの“真血”。

古の契約により、神にすら並ぶとされる“統治の因果力”を受け継ぐ者。


「……やっと目覚めたみたいね。私の中の“王”が」


その力は「命令を“絶対”にする力」。

静にとっての“主”たる資質を、真に神すら上回る次元へと昇華させる力だった。


静が膝をつく。

それは苦痛や屈服ではない。自然と、魂が“膝をつくこと”を選んでいた。


「……あなたは、絶対です。ご主人様」


「ええ。だから静。お前はこの世界のすべてを、私のものとして差し出しなさい」


「──了解しました。神界すらも、私たちの庭としましょう」


その瞬間、静の目の色が変わる。

世界の情報層にアクセスし、《叡智なる半全能》が一段階進化する。


レティアが「神の上に立つ資格」を得たことで、静の力の“参照権限”が拡張されたのだ。



調律神官たちが慌てて術式を発動する。


「即時拘束構文! 神律アンカー展開──」


しかし、静の指先がひとつ振れた。


「その理論、すでに無効です」


術式が消える。法則が書き換えられる。

神々が神として保有していた“前提”すらも、静の手で剥ぎ取られる。


「……失礼しました。神界からのおつかいにしては、随分と質が低い」


「神に許可されなくても、この世界は“ご主人様”のものです。私の力は、そのために存在しています」


調律神官たちは、戦わずして崩れ落ちた。

静の力によって、存在定義そのものが“無効化”されたからだ。



戦いが終わり、レティアは少しだけ疲れたように腰を下ろす。


「……ねえ、静」


「はい、ご主人様」


「私は、あなたに全部与える。神でも、人間でも、魔族でもない、“絶対の場所”を」


「その代わり、あなたも全部ちょうだい。力も、魂も、未来も、私のために使いなさい」


静は、微笑んで頭を垂れた。


「この命、全知全能のすべて、永久にご主人様のものです」


そうして、主と従者は“神界すら敵に回す運命”を確かに選び取った。


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