第9話 絶対神計画始動と、“選ばれる者”
──神界・中央評議院、オーダー中枢。
七柱の上位神とそれに連なる三十三柱の高位神が集う、天界最大の秘密会議。
「……天城静は、制御不能な存在ではあるが、その知性と律法干渉能力は“資産”だ」
「排除ではなく、“取り込み”を前提に方針を転換するべきだと、
その言葉に、神々は静かに頷いた。
「絶対神計画(プロジェクト・デウス)」──
それは、完全なる全知全能を“神界の統治中枢”に吸収し、神界主導の再秩序構築に用いるという狂気の案。
この世界に“真の創造主”を後付けで作り出し、支配体制を盤石にするための――神々の保身であり、再編でもある。
「“神の座”は、我らが決める」
◆
その頃、王都・離宮。
静は、フィロスの導きにより新たな“理解”に到達しつつあった。
全知全能に足を踏み入れ始めている今、彼女の精神には“世界の構造そのもの”が透けて見え始めている。
しかし。
「……来ます。神界からの直接介入体。形式上は“使者”ですが、構造的には強制干渉術式──これは、“捕獲”が目的です」
静の予測通り、神界から降臨したのは「調律神官」と呼ばれる精鋭たち。
対話も交渉もなく、ただ“所有権の譲渡”を求めてきた。
「天城静の能力は、もはや個人に属すべきではない」
「神界の所有とする。引き渡せ。従えば、主も従者も生かしておこう」
静が前に出ようとした、その時――
「待ちなさい」
静の前に立ったのは、レティアだった。
「……ご主人様?」
「私の“しもべ”を誰の許可で所有物扱いしてるのよ」
レティアの声が冷たく、深く、世界を圧するように響く。
調律神官たちが一瞬たじろぐ。
彼女の内に、異常な“魔性”が湧き上がっていた。
「この反応……まさか……!」
◆
──その瞬間、レティアの身体を中心に、黒と金の魔紋が爆発する。
それは、
古の契約により、神にすら並ぶとされる“統治の因果力”を受け継ぐ者。
「……やっと目覚めたみたいね。私の中の“王”が」
その力は「命令を“絶対”にする力」。
静にとっての“主”たる資質を、真に神すら上回る次元へと昇華させる力だった。
静が膝をつく。
それは苦痛や屈服ではない。自然と、魂が“膝をつくこと”を選んでいた。
「……あなたは、絶対です。ご主人様」
「ええ。だから静。お前はこの世界のすべてを、私のものとして差し出しなさい」
「──了解しました。神界すらも、私たちの庭としましょう」
その瞬間、静の目の色が変わる。
世界の情報層にアクセスし、《叡智なる半全能》が一段階進化する。
レティアが「神の上に立つ資格」を得たことで、静の力の“参照権限”が拡張されたのだ。
◆
調律神官たちが慌てて術式を発動する。
「即時拘束構文! 神律アンカー展開──」
しかし、静の指先がひとつ振れた。
「その理論、すでに無効です」
術式が消える。法則が書き換えられる。
神々が神として保有していた“前提”すらも、静の手で剥ぎ取られる。
「……失礼しました。神界からのおつかいにしては、随分と質が低い」
「神に許可されなくても、この世界は“ご主人様”のものです。私の力は、そのために存在しています」
調律神官たちは、戦わずして崩れ落ちた。
静の力によって、存在定義そのものが“無効化”されたからだ。
◆
戦いが終わり、レティアは少しだけ疲れたように腰を下ろす。
「……ねえ、静」
「はい、ご主人様」
「私は、あなたに全部与える。神でも、人間でも、魔族でもない、“絶対の場所”を」
「その代わり、あなたも全部ちょうだい。力も、魂も、未来も、私のために使いなさい」
静は、微笑んで頭を垂れた。
「この命、全知全能のすべて、永久にご主人様のものです」
そうして、主と従者は“神界すら敵に回す運命”を確かに選び取った。
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