第10話 創世因果と、神界反逆の火種

──天界、聖断のエーテル議廊


「彼女は“因果”を握っている。神々が従う“最初の前提”すらも、彼女の力は書き換える」


神界上位議員の一人、概念神イストリアはそう断じた。

だがその言葉は“危機”ではなく、“希望”として語られていた。


「運命律に束縛されてきたこの世界に、ようやく新しい可能性が現れた。静は、世界を“再定義”できる」


神々の中に芽生える、“神ではない者”への信仰。


それはやがて《神界異端派》として地下へと結集し始める。

目的はただ一つ――“創造神の座を静に譲渡する”こと。


「今の我々は“守るだけの神”だ。だが、彼女は“創る力”を持っている」


「ならば、神の時代を終えよう。我らは創造者にひざまずく」



一方、静とレティアは王都北方にある“初律の遺跡”を訪れていた。

ここは、世界が最初に定めた“神格構造の雛形”が埋葬されている場所。


「この場に触れることで、私は“神格そのもの”を再定義できます。……ただし、代償は大きい。精神負荷と法則干渉により、《オムニタイム》発動中とほぼ同じ負担が発生する」


「やる価値はあるわ。静……世界を創り変える準備を始めましょう」


レティアの言葉に、静は頷いた。


──“神が生まれる前の法則”

──“神が世界を理解する前の真理”


静の力はそれに触れ、世界の成り立ちすら書き換える力を持ち始める。


《叡智なる半全能》の領域が拡大しつつあった。



だがその時。

天界の深部で、忘れ去られた“抑止の装置”が稼働を開始する。


《神格干渉兵器・アルマ》

かつて神々が、最悪の神災に備えて設計した“神殺しのための存在”。

神性に直接干渉し、存在そのものを断絶する兵器。

今、その矛先は天城静へと向けられる。


「ターゲット・セミ=オムニポテンス、解析完了。干渉因果計画──実行フェーズへ」



夜、静は突然、視界が歪むのを感じた。


「ご主人様……何かが、私に……干渉しています。通常の神性干渉ではありません。因果の下層──存在定義の領域に……」


「静! ……私の命令が……届いてない……?」


レティアの声が、届かない。

静の意識が、一瞬だけ“世界から隔離”される。


──その空間で、アルマの声が響いた。


《汝の存在は、因果律違反と認定。抹消処理を開始する》


静は必死に抵抗する。

だが、この干渉は神すらも消し得る“絶対武装”。《叡智なる半全能》さえ、通常状態では対応しきれない。


(だめ……このままでは……)


その時、響いたのはレティアの声だった。


──「静、命令よ。全てを上書きしなさい!」


その命令が届いた瞬間、静の体内にあった《鍵》が解放される。


「《オムニタイム》──起動、許可」


1日2分30秒、完全なる全知全能。

静の全てが、瞬間的に“世界そのもの”へと接続された。


「了解、全領域掌握……アルマ、その定義を“神を殺す兵器”から“概念:無存在”へと変更」


《……存在定義喪失。アルマ、消失》


次の瞬間、神々が造りし最強兵器は一切の痕跡を残さず“なかったこと”になった。



《オムニタイム》終了後、静は再び昏睡へ。


レティアはその小さな体で、静を抱きしめる。


「……静。あなたは、ただの力じゃないわ。あなたこそが……“新しい神そのもの”」


「だから、絶対に奪わせない。神界も、兵器も、何一つ……あなたを私から奪えない」


レティアの声は静かで、しかし確かに“神々すらを従わせる絶対の王命”だった。


その声に応えるように、静の指先が微かに動いた。



その後、神界では公式に《神格干渉兵器アルマ》の存在が“抹消された”と記録される。

それは、静の力によって“歴史そのもの”が書き換えられた初めての事例。


そして、神々はついに気づき始める。


──彼女は神ではない。

──彼女は、“創世因果そのもの”だ。

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