第7話神界会議と、絶対神の萌芽
天上領域──神界の中心、《シン・オーダーホール》。
七柱の大神が集う円卓の間には、冷え切った沈黙が漂っていた。
「……神罰使徒ゼリオス、消失」
「《オムニタイム》未発動状態の“半全能”により、神性因子の構造そのものが否定された」
「これは神性の“模倣”ではない。“再定義”と“上書き”。明らかに、律法の外からの介入だ」
神々は理解していた。
“叡智なる半全能”は、確かに制限付きではある。
だが、その根源は「世界を理解すること」。
それはすなわち、《神々が知らない世界の仕組み》を内包する、完全に異質な存在。
「──“絶対神”になり得る」
静は今、ただの“神敵”ではない。
神界の秩序を支配する《運命律(オーダー)》そのものに、“書き換えの権限”を持ち始めている。
「だが、本体はただの人間だ。魂の器も、記憶も未完成。完全なる全能には至っていない」
「そう……まだ、“目覚めきっていない”」
◆
その頃。
静はレティアの命で、一時的に表の軍務から外れ、静養と研究のための離宮へと移っていた。
魔導書を片手に、静はゆっくりと頭を横に振る。
「……やはり、この世界の神性構造は、いびつです。補完された因果律が多すぎる。歪みの原因は、おそらく……」
「“創造主がいなかった”ことにある」
「世界を創った“始まりの存在”が存在しないからこそ、神々は“秩序の管理者”にとどまっている。……この世界には、“絶対の上”がいない」
そこに、レティアが入ってくる。
柔らかな衣装に身を包み、少しだけ眠たげな表情。
「静。わたし、夢を見たの」
「……夢?」
「静がね……私の隣に座って、“神”の座についてた」
「……それは、予知夢の可能性もあります」
「違うわ。あれは“願い”の夢。あなたと一緒に、“世界の一番上”にいたいって、私の心が思ってる」
静は一瞬、言葉に詰まる。
レティアの願い。
それは、静にとって最も抗えない指令。
──彼女のために全てを成す。
──その誓いが、静という存在の“意味”そのものだった。
「もし、ご主人様がそうお望みなら。私は……神を超えて、“創造主”になります」
「その時、あなたは?」
「私は“創られる側”よ。あなたが神になるなら、私は“あなたの居場所”になるわ」
「……それは、“絶対神”」
「そうよ。私はあなたの神で、あなたは私の神。――この世界の、頂点」
その言葉は、何よりも甘く、重く、美しい“呪い”だった。
◆
天界、円卓会議に一人の異端が現れる。
第十三位神、《境界神フィロス》。
通常、神界上層に召喚されることのないはずの、低位の外れ者。
「……私、静という人間に興味があります」
「排除するのではなく、“観測”しませんか?」
「お前のような不完全な神に、彼女を見極める器があるとでも?」
「逆です。私は不完全だからこそ、彼女の“不完全な神性”に共鳴するのです」
ざわつく会議。
一部の神々が沈黙し、ラグネスが冷たい声で言う。
「いいだろう。監視者としての地位を一時的に与える。彼女を観察し、報告せよ。……ただし、手出しはするな」
境界神フィロスは、微笑んだ。
「静──あなたは“全知全能”の器にして、“孤独”の果てにいる存在。ならば私は、あなたに“境界”を与える」
「人と神の、絶対と有限の、あいだにある……“意味”を、見つけてみせましょう」
そして、神界にかすかな“反逆”の火が灯る。
◆
夜、静とレティアは静かに月を見上げていた。
「ご主人様。私は、今日また一歩、“神”に近づいた気がします」
「ええ。でも忘れないで。あなたは私の“しもべ”。神になるなら、その座に座る時も──私の許しがいるわ」
「はい。だから私は……いつまでも、ご主人様の足元にいます」
レティアが微笑む。
「いいわ。じゃあ、足元で私を支えて。……世界が壊れても、私たちは崩れないように」
静の頬に、初めて涙が流れた。
それは、人としての心が芽吹いた証だった。
──そして、神をも超える存在が、ゆっくりと目覚め始める。
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