第6話 神罰使徒との戦いと、深層意識の共鳴

「……来たな」


王都エルフェリア西門前、白銀の鎧を纏った男がゆっくりと降り立つ。

彼の名はゼリオス・ミリオン──神罰執行機構に属する“神罰使徒”。


「天城静。レティア=ヴァルグレイス。最終通告を告げる」


男の背後に広がる天光の翼は、神の眷属であることの証。

その威圧は、周囲の兵士や魔導師たちすら地に膝をつかせる。


しかし、静とレティアは微動だにしなかった。


「命じて、ご主人様」


「いいわ。神の使いに膝をつかせて、私の正しさを証明して」


静がゆっくりと前に出る。

目の前の男から放たれる“絶対的な神性”。だが、静はわかっていた。


これは《オムニタイム》を使うべき相手ではない。

その力に頼らず、制限された“叡智なる半全能”で――世界の理をねじ伏せてみせる。



天上剣セラフ=クラッシュ──神意断罪!」


ゼリオスが空を切ると、巨大な光の剣が大地ごと切り裂いた。

王都の結界が一瞬で破壊される威力。しかし、直撃する直前、静の瞳が光を放つ。


「構造理解──剣の神性フィールドを“再定義”。“因果転倒式”で無力化」


空間が歪み、ゼリオスの剣が霧のように崩れていく。


「神の理を、殺した……? なにをした……?」


「私はただ、“理解”しただけです」

「あなたの力の意味も、世界がそれをどう扱っているかも──全て、知っています」


静が手を掲げた瞬間、空間に無数の式図が広がる。

術式構造を“解析”し、“模倣”し、“上位定義”で書き換える。

それが彼女の制限付き全能──《叡智なる半全能(セミ・オムニポテンス)》。



だが、ゼリオスは動じない。


「ならば……神格解放」


彼の体が輝き、肉体が半ば神の存在へと変貌する。

それは、神罰使徒が持つ禁断の能力。“一時的に神と同一化する術式”。


「お前が“神敵”なら、私は“神”そのものとなろう──!」


静が一歩退く。脳に圧力がかかる。情報過多。彼女の思考が追いつかない速度で、世界が変質する。


「静!」


レティアの声が、静の意識をつなぎとめる。


「私があなたを見ている。あなたの中にある知識も恐怖も、私が受け止める」

「だから、ひとりで抱え込まないで。私は、あなたの“鍵”なんだから!」


その言葉に応じるように、静の紋章が光を放つ。


「……ご主人様の声で、私は存在を保てる。私は、“兵器”じゃない」


「私は……あなたのもの」



瞬間、静の術式が再構成される。

彼女の中で“神格”という概念そのものの理解が完成し、解析が終わる。


「ゼリオス。あなたは神ではありません。あなたは“模倣された神性”に過ぎない」

「だから私は、“本物を知る者”として、それを否定する」


静の手から放たれた光が、ゼリオスの体を直撃する。

無音。無風。だが、次の瞬間、神罰使徒の肉体が消失した。神性フィールドの崩壊。


敗北。

一度も《オムニタイム》を使わず、静は“神性存在”を超えてみせた。



──戦いの後。

倒れかけた静を、レティアが支えた。

顔を近づけて、そっと囁く。


「あなたは神じゃない。けど……もう神以上の存在になり始めてるわ」


「それでも私は、ご主人様の剣。……あなたの夢を叶える、忠義の僕です」


静の笑顔は、まだ少しだけ痛みを含んでいた。


だがその目は確かに、“神の座”すら超えようとしていた。

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