第31話 今村陽菜
「よし、これに決めました!」
「いいじゃないか? これなら萌も喜ぶと思う」
あの後、雑貨屋のほかにもショッピングモール内のいくつかの店を巡り、ようやくプレゼントを決めることができた。
月の絶望的なセンスにはかなり苦労したが、これにて一件落着だ。
月は嬉しそうに、手に持ったプレゼントをぎゅっと握った。
「陽斗君。そ、その……手伝ってくれてありがとうございます」
いじらしく、少し照れくさそうに、月は礼を言った。
その可愛らしい動作に、思わず笑みがこぼれる。
「さて、目的も達成したし、そろそろ帰るか」
「そうですね。あ、私は少し買い物していきます。食材切らしてて……」
「よし、俺も買い物付き合うわ」
「なにか悪意を感じるんですが!?」
いやだって迷子になるし。
「あのですね。私だって成長するんです。最初のころは、引っ越してきたばっかでよく迷いましたけど、もう慣れました。大丈夫です、一人で帰れます」
「嘘くせー」
「嘘くさいとはなんですか。嘘くさいとは。というか、そもそもあなたは……」
月は言葉を続けようとしたが、その瞬間、月の言葉を遮るように人影が割り込んだ。
「あれ、お兄ちゃん?」
俺たちは思わず、声のした方向を見やった。
その声の主は、近くの中学校の制服を着ており、髪は明るい茶髪。肩に届くか届かないくらいの長さをしていて、少し低めの身長をしていた。
「陽菜? なんでここに……」
「友達と一緒に買い物に来てたの。で、みんな帰ったから、私も帰ろーってなったときに、なぜかお兄ちゃんがいたってわけ」
「なるほど」
そういえば、朝から萌は出かけてたな……。
「で、そっちは何? デート?」
「まぁデートといえば、デートだな」
「ふーん、やっぱデートか。へー……ってデートぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉」
うるさい。唾飛ばすな。
「え、ほんとにデート? いやいや、お兄ちゃんは学校では地味だし、目立たないし、というか友達すらいないし……。友達すらいないお兄ちゃんが彼女を作れるわけないし……でも、本人はデートって言ってるし……」
なにやらぶつぶつ言ってるが、気にしないことにしよう。
「すみません、あの人は?」
「今村陽菜。俺の妹だ」
「……お兄ちゃん思いなんですね」
「遠慮なくブラコンといっていいぞ? もっとも、あいつはブラコンじゃないけどな」
あいつはブラコンというより——。
「考えても仕方ない。よし、一回聞いてみよう!」
考えがまとまったのか、陽菜がこっちに詰め寄ってきた。
我が妹ながら、奇行がすごい。
「結局お兄ちゃんは何してるんだっけ?」
「だからデートだ」
「で、でもお兄ちゃんは————!」
「とはいっても、友人とのだけどな。誕生日プレゼントを選ぶのを手伝っていたんだ」
「え、友人?」
陽菜はゆっくりと月のほうを見る。
「はい、陽斗君の友人の天野月といいます。こんにちは、妹さん」
「あ、ほんとに友人なんだ……」
しばらくの沈黙。そして、陽菜が頭を下げた。
「す、すみません! 私、誤解してしまって!」
「いえ、別に気にしてませんよ」
「それでもです! 本当にすみません!」
ペコペコと頭を下げる陽菜に対して、月がそれをなだめる。
とりあえず、うまく誤解が解けたようで一安心だ。
陽菜のやつ、放っておいたら余計なこといいだしかねなかったからな。
「では、私ご飯買ってきますね」
「わかった。付き合おう」
「いや、だから迷いませんよ?」
「いーや、迷う」
「断言しないでください」
月の方向音痴はゾロ並みだからな、しっかり見ておかないと。
という感じで、月をいつものようにいじっていたのだが、少し気になったところがあるのか、陽菜が会話に参入してきた。
「天野さん、晩御飯まだなんですか?」
「この時間だぞ。当たり前だろ」
「お兄ちゃんは黙ってて」
急に辛辣。
「そうじゃなくて、この後予定なにかありますか?」
「買い物したら、あとは帰るだけですね」
「なるほど……」
またブツブツと何かを考える動作をする。
何をしたいんだこいつは?
そして、陽菜は改めて口を開く。
「天野さん……せっかくなら、うちで食べていきませんか?」
「「…………はい?」」
思わず俺と月の声が、ぴったり重なった。
そして、同時にこう思う。
……なにいってんだこいつ。
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