第32話 来訪
お久しぶりになりました。
最近更新できなくてごめんなさい。
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「へー、本当に隣に住んでいるですね」
「ええ、四月からですけど」
「そう言われていえば、たしかに見覚えが……」
俺の家に向かう道中、月と陽菜が談笑を交わす。
隣に住んでいることを話のきっかけに、話題を広げていく。隣の呪いに関しては流石に伏せたが。
「ていうか、本当に綺麗ですね……化粧水とか何使ってるんですか?」
「ああ、あの〇〇メーカーとか、△△製薬とかですね」
「なるほど、メモメモ……」
月から見た陽菜の初対面がかなりひどいものだったので、心配していたが、杞憂に終わったようでよかった。
「さ、着いたぞ」
「私は一回荷物置いてきますね」
「分かった」
そう言って、一回俺たちは部屋の前で別れた。
◇ ◇ ◇
そもそも月が俺の家に来ることになったのは、陽菜の言葉によるものだ。
ご飯を食べてないなら、せっかくなら家で食べないかというもの。
俺にできた女友達が、そんなに気になるらしい。
最初は月も断っていたが、最終的に陽菜に押し切られたという形だ。
ピンポーン。
軽快にチャイムが鳴った。
「はーい」
返事をしながら、扉を開く。
「こんばんは」
分かっていたが、開いた扉の先には月がいた。
分かっていたが……それでもなんか緊張するな。
「こんばんは、月」
「とはいってもさっきまで一緒でしたけどね」
「それもそうだな、さ、上がってくれ」
「お邪魔します」
月は靴を脱ぎながら、軽く挨拶する。
そして、そのままロビーへ。
「……っ」
月が声を漏らす。月が《あの部屋》を覗いたな。
あえてそのことは突っ込まず、リビングに入り「座っていいぞ」と声をかけた。
「で、では」
俺にそう言われ、月はおそるおそるソファに座る。
緊張しているのだろうか、どこか体が固い。もっと楽にしていいと思うが、ま、仕方ないな。
そんなことを思いながら、俺はキッチンの前に移動した。
「一時間くらいかな。多分それくらいでできる」
「陽斗君が料理を?」
「ああ、母さんは仕事、父さんはもう亡くなってるからな。陽菜も料理できないし、消去法で俺が作ってる」
「え」
俺は手を動かしながら、月の驚いた表情を横目で見た。
おそらく月は「父が亡くなった」というところに反応したのだろう。当たり前だ、急にそんなことを言われたら、俺だって驚いてしまう。
「別に気にしてないから大丈夫だぞ。気を使わなくていい」
まぁ、そう言ってもしばらくは気を使ってくるだろうが。
隠し通すこともできたが、家に呼んだ時点でいずれバレる。俺が料理を作っていること、ご飯の時間になっても親が帰ってこないこと、父の仏壇があること、これでバレないってほうがおかしな話だ。
現にさっき、父の仏壇を見られてしまったからな。声を漏らしたのはそれが理由だろう。
「そんなことより、なんか食べたいものとかあるか?」
「え、いや、あんまり……」
「なんでもいいから」
「じゃ、じゃあ……卵焼きで」
「あいよ」
こういうのは、当人の反応も大事だ。
当人が気にしていれば、周りも気にする。当人が気にしていなければ、周りも気にしない。空気というやつだな。
だから、俺が気にしていないことをアピールしておく。
そして、陽菜も着替え終わったのか、ちょうどやってきた。
「お、良い匂い。今日のご飯何ー?」
「ハンバーグ。卵焼きもついてくるぞ」
「やったー!」
陽菜はご飯を聞いた後、月の隣に座る。
そこから二人の会話が始まり、たまに俺も会話に挟まる。
いつもは作業感が強い料理だが、今日は少し楽しく作れそうだ。
◇ ◇ ◇
「できたぞ、めしあがれ」
最後の皿をテーブルに置き、俺も座る。
「いただきます」
そう声を合わせてから、月はおそるおそる手元の箸を手に取った。
緊張した様子でハンバーグを切り分け、一回ご飯にキープさせてから、口へ運ぶ。
「……っ」
一瞬、目を丸くしたあと、頬がゆるんでいく。
まるで子どものように素直に、驚きと喜びが混じった表情だった。
「……おいしいです!」
俺はその言葉を聞き、安堵を覚える。
「そりゃよかった」
そのまま月は、卵焼きなど別のおかずに手を出す。
「卵焼きも……この味噌汁も……すごくおいしいです」
「口にあったようでよかった。お前は美味いもの、いっぱい食べてそうだったし」
なんせ、学校から遠いって理由で引っ越しするくらいには金持ちだし。
「まずそもそも、家庭の味と高級店の味を比べるのが間違ってます。家で作ることでしかだせない味というのもあります」
「それ褒めてる?」
「褒めてますよ。すごく」
「そりゃどうも」
ま、そもそもその緩んだ口元を見れば、どう思ってるかは一目瞭然だな。
一通り、月の反応を見終わったところで俺もハンバーグを切り分け口に運ぶ。
「うま」
「うわっ、ナルシスト」
「うるせぇ」
思わず口に出してしまって、陽菜に突っ込まれる。
「でも、本当に美味しいとは思いますよ。私も普段から料理はしますが、陽斗君には敵わない気がします」
「まぁ、昔から兄はよくご飯作ってましたかねー。将来は自分の店を開く! とか言ってましたし」
「え、店開くんですか?」
「昔の話だ昔の話」
というか、よくそんなこと覚えてるな……。
少し懐かしい気持ちになりながら、ご飯を食べ進める。
それにしても、家で妹以外の異性とご飯を食べるのは、なんか、こう……、家族みたいだなと思った。いや、妹いるんだけど。
そんなことを考えていたせいか、さっきよりご飯が甘く感じた。
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