異世界転生サ終済み!!

「もう、ネタがありません!!」


 と悲痛に叫ぶ部下のブーカを蔑ろにはできない。

 なにより、自身も限界を悟っていた。だからこそ、もう無理だと上申する。


「この体制は維持できません……ご決断を。女神レリア」

 伏せた目からは、感情が読み取れない。けれどなんだか悲しそうな……それでいてどこか楽になったような顔に見えた。そんな表情をさせてしまうことにわずかな罪悪感があるけれど、無理なものは無理だ。できないものをできないと認めるのだって、難しくも必要なことだ。そうに、違いないはずだ。

 わずかな瞑目のあと、女神は告げた。


「――わかりました。現時点をもって、世界名『レリアーナ』の転生受け入れ、および世界運営を停止します」


 ――こうして、世界名『ゲンジツ』からの異世界転移は終了した


 ★


「……はぁ、ようやく終わったっすねぇ……」


 魔コーヒーを片手に、部下のブーカが口を開く。


「インフレに次ぐインフレ調整だったからな……流石にそろそろ畳まないといけないのは確かだろ」


「もうほんとにネタ切れでしたよ。どんな才能を付与すれば誰と被らず、素敵な素敵な人生を歩むかなんて。だいたい、みんなチート望みすぎですし、そんなチートばっかりの世界で今更素敵大満足できるようなチートがそんなにあるわけないじゃないっすか……それも見るからに強い能力じゃなくて一見弱く見えてその実使い方で魅せるような能力!? まったく、転生者もちょっとはこっちの事情を受け入れて欲しいもんですよ!! そもそもなんであんなの受け入れてたんですか?」


 ながい、ながい。鬱憤と愚痴が、溜まりに溜まりきっていたようだった。 


「あー、お前はまだ知らなかったか」


 それもおそらくちゃんと経緯を説明できていなかったから。何より忙しいのがいけない。もう少しワークとライフのバランスをだね……と言いたいところだけれど「人様のライフを支えるためには誰かのライフを犠牲にしなければならないのだよ」との金言には逆らえなかった。というか、言ってるジョーシの目の下のクマが有無を言わせなかった。


「なんすか、もったいぶってないで教えてくださいよ」


「まぁ、大した話じゃないんだがな。いや、まぁ他言無用で頼む」


 こくり、とまじめくさった顔で頷くのを見届けて、その実みんながみんな知っている話をする。機密性:鬼の話なのにね、なんで漏れてるんだろうね。


「昔、大きく事故っちまったんだよ。うちの世界線」


「へ?」


「別の世界線とドーンって!! んで」


「待ってくださいよ、なんかさくっと省こうとしてますけどすごいこと言ってません?」


「そうか? いつもやってた転生の干渉と似たようなもんだから原理の説明はいらんだろ?」


「雑談でするような話っすか? ちょっと交通事故で〜とはケタが違いますよ?? 世界線の衝突?? どっちも世界ごと滅びる一歩手前じゃないですか」


「そうそう、そんな感じ。だからまぁひどく紛糾してさ。向こう側の管理者と折衝に次ぐ折衝を重ねたわけ」


「はぁ」


「そんで折り合いをつけてもらったのがこの賠償。幸せにしきれない魂の回収と幸せのためのパッチ当て作業よろ!! って向こうは言ってたかな」


「すごい適当じゃないっすか……」


「まぁあっちの管理者の風土は別にそういう感じなんだよなぁ……適当というか投げやりというか。それもあって、あっちの世界の魂は幸せなんて死と目を合わせたとき、ようやく己の手で見つけるから幸せなんだぜ、みたいな感じで生きてるんだと。そうできない奴は残念賞、みたいな」


「それって……つまり、死ぬ直前まで納得のいくような幸せの記憶を持たなかったやつがこっちに送り込まれてるってことじゃないっすか……ええ、そうか、そいつらに【才能資源】突っ込んでたんすね、おれら」


「そうだろ……まじか、そこも知らんかったんだな」


「そりゃそうですよ。ここにきてからってものそんな振り返りをするまでもなく、仕事! タスク! 苦情対応!! やってられるかってんですよ。新しいことを始める前に終わった仕事を片付けさせてくださいって何回言ったかわかりませんって……世界終わるまでに残務整理終わるかなぁ」


「まぁ、あの世界の運営が終わって残務処理が終われば暇になるだろ。次の世界構想は女神様中心に別のメンツで進めるだろうし」


「そうなんすか……仕事減るならなんでもいいです。あー、辞めてぇー!!」


 残務処理が終わればと留保をつけてしか話せない。終わるのかなぁ。流石に世界も終わるしいつかは終わるんだろうけどさぁ。


「減るといいなぁ……こっからたぶんゲンジツサイドと不幸せの後始末についてどうすっか考えるフェーズだぜ」


「いやっすねぇ……己の世界のケツくらい己で拭けってはなしっすよ」


「まぁそれをいうと世界運行を間違えて衝突したこっちの責任をこなしてるだけなんだけどな。世界衝突で生まれた不幸せもあるしな……全部が全部じゃないが」


「あのインフレ調整も全部それっすか?」


「そうだぜ、生きる意味なんてものを見つけられなかった不幸せな魂に、それなりの生きる意味を得させて殺すための転生ボーナス!!」


「この世界に生まれてこの世界の人間が享受するべきだった才能の枠を食い潰して、他の世界の人間にやんのなんだか落ち着いて考えるととっても嫌っすねぇ」


「まぁそういうもんだ。やなことばっかだよ……さて、きっちり3分。これ以上の休憩はジョーシが恐ろしくなるぞ。戻るか」


「仕事仕事♪ 今日も楽しくて嬉しくなっちゃいますねぇ」


「嬉しいなら何よりだよ」


 ひとつも本心なんてないような軽口を叩いて、休憩から戻ることにした。

 みんなが両手をあげて待ち望んでくれる、楽しい楽しい職場への帰還だ。


 ★

 

 前言通り、戻った職場では、皆が手をあげていた。

 もとい、それはお手上げという状態だった。

 

「きゅうけー、お疲れ様〜〜。も〜やんなっちゃうねぇ……なーんもうまくいかないよ。もうやすみたい……ねぇそうだよねぇ、そろそろゆっくり休みたいよねクマ太郎……ぺけ!!」


 目の下のクマを可愛がり始めた限界ジョーシにクッションを押し付けて、まだしも話ができそうなはやつをさがすも。


「……だめだなこりゃ」


「だめっすねぇ……誰も彼もが夢心地。何が起きたらこうなるんです?」


「逃避したいほど酷いんじゃないか?」


「んなまさか。今世界凍結したばっかりですよ? リアルタイムで大量の苦情を捌き続ける業務から解放されて終わりのある仕事に変わったんすよ? そんなわけないじゃあないですか、やだなぁうふふ」

 

 ――世界凍結。

 これはまだ不思議じゃない。女神の方針がそうなったのならそうだ。世界運営に割いていたリソースを停止する処置に他ならない。

 今の世界の運営を続けるよりも運営停止ののち別の世界運営に走った方が幾分かマシとの判断。インフレが進みきった環境をリセットするためにも、転生受け入れから世界凍結までは既定路線だった。だから、そうしたはずだった。


 厳密には運営側と運営される世界の時間の流れは違うので、世界凍結の告知が出たのは彼らの世界で10年前くらいのことだろう。今いる生命体の命ある限り、今ある資源だけで世界の運営は続けるが、これを境に次の命は生まれなくなるという処理。穏やかに死を迎える世界線になるはずだった、が。


「へ、これ、まじか」

「何が起きてるんですこれ」


 呆然とする。呆然とせざるを得ない。


 反応があるのだ。

 過剰なほどの【才能資源】の反応。こちらから供給されていたころよりもはるかに強い反応。


「まさか……?」

「独立……ですかね?」

 

 【才能】の組み合わせで擬似的な女神に至る可能性は前から噂されていた、が、そんなものはあり得ないと結論づけられていた。どこまで行ってもリソースは有限。女神は女神の力全てで構成されていて、女神の力を腑分けした【才能】だけでは創世の女神までには成り上がれない。世界線ごと運営から独立するなんてことはまず無理だろうと言われていた。


 その結論に歯向かうようなことが起きているようで、俄然、胸が高鳴る。


 ……これがあれば、世界運営は現地にパスして女神が作る新しい世界の運営に注力できる……!! 

 転生受け入れ先も現地独立勢力に丸投げして仕舞えば楽になる……!?


 そんな思考の傍ら。


 ――ごぽっ

 嫌な音が響いた。

 

 ばたり。

 嫌な音は加速した。


 それから、軽い悲鳴。

 悪夢心地の同僚らを眼前の現状に引き戻すだけの大事。


 ――女神が、倒れた。


「救護ッ!!」


 悲鳴と救護対応とが入り混じり、オフィスはにわかに騒然とする。女神が倒れるなんて未だかつてないことに救護班も慌てふためく。ジョーシらが慌てふためいては女神対応に奔走し始め……る傍で、オレは動けなかった。

 動けないだけの、声があった。

 

「おい、近頃ずっとサポートが足りねぇなぁ!!

 女神は何してやがる? 俺は転生者だぞ!!」


 苦情対応チャンネルから響く野太い声。投影されるは、傲岸不遜な男の姿。

 もうサポート対象外の、サービス終了後のバージョンを無理やりに動かそうとするようななにか。なにか、というか、モンスター。


「あんまりな対応だなァ!! 管理者さんよォ!!」


 冒険者じゃないオレたちがよく戦う……ほぼ唯一のモンスター。 【クレーマー】


 画面に浮かぶ男は中指を天に突き立てながら豪語した。

 

「きっちりサポートしねぇなら、そこの女神さえ殺しちまうぜ?」


 下卑た笑み。あふれるほどの【才能】の発露。

 間違いない。間違いなどあるはずがない。


 現在進行形で、こいつが女神の【死】に加担している。


 通話チャンネルをひったくって、とびきりの笑顔で出迎える。


 いつものとおり、

 マニュアルも、ろくな先例もなく。

 あるのはとびきりの責任だけ。

 何なら女神の死すらかかっているなら、これはきっといつも以上にイレギュラー。


 だけれども、いつもとおりの笑みを浮かべて。

 オレはオレの仕事を全うする。


「失礼いたしました。詳しくお話を伺っても?」









書いた所感。

 よわーい。アイデアとしては50点。

 ここからの展開が見えないので1話の構成としては弱め。

 アイデアの起点はひとによっては、なるほど、となるかもしれないけれど、それ以上の魅力がない。キャラクター性が弱い。そして、ここからの展開が本当に読めない。ノープラン過ぎませんか!? 

 世界を終わらせるために動く世界運営者。サ終したはずなのにサーバーを乗っ取って容量すら食いつぶして続くゲーム、みたいなものをイメージして、異世界転生の文脈に乗せ直して整形。

 最終的にはどこに持ってくつもりなんでしょう。みえなーーい!!

 わかりやすい解決策が、運営から薬物の投与になりそうでこわいですね。効率よく幸せになって反抗心を奪う……ええ、薬物ってこわ……こわ……

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