第34話 じゃあ……お義父さん、こんにちは?
家に行く……ご褒美?
セクシーなスク水?それともサスペンダー付きのレース?あるいは、セクシーなオープンフロントドレス?
FBI警告!
先生の後ろをついて歩く多崎司は、今日の東京は格別に暑いと感じていた。少し歩いただけで喉が渇き、体も軽くなったような気がした。一歩踏み出すごとに、まるで月面を歩いているかのような軽快さがあった。
ごちゃごちゃした街並みが今日は格別に美しく見えた。アスファルトのひび割れからは野の花が生え、屋根の上には子猫が座り、調子外れな歌を歌っている。
この世界のすべてがとても愛おしく感じられ、心まで柔らかくなった。
北参道を抜け、地下トンネルを通り、神宮外苑前の住宅街に入っていく。
二人は今、散歩道を歩いている。アスファルトの小道は広くなく、たまにランナーが通り過ぎる以外は、人通りは少ない。
片側には高くそびえるプラタナスが植えられ、もう片側には白漆喰の石塀や竹垣、そして塀から伸びる松や柏がある。時折、通り過ぎる二人連れの話し声も、この静寂を壊さないように、自然と低くなるようだった。
こんな場所なら、先生からのご褒美を急いで見たいという気持ちがなければ、多崎司は本を片手に一日中座っていられるだろう。
小道の突き当たりまで来ると、二人は古風で、武道館のような建物の前で立ち止まった。北川学園の門と同じくらいの大きさの門の両側には、スーツを着たスキンヘッドの大男が二列に並んでおり、一目でまともな人間ではないことが分かる。
しかし……
多崎司は門の上に掲げられた「こざくら一家」と刻まれた看板を長い間見つめ、この屋敷が何なのか、全く理解できなかった。
「さあ」星野花見は手招きした。「入りましょう」
「入るって?先生の家に行くって言ったんじゃ?」
「ええ、ここが先生の家よ。前庭が道場で、奥が先生の住んでいるところ」
「先生の家は道場を開いているんですね」
「道場もそうね……」星野花見は門に向かって歩きながら、落ち着いた様子で答えた。「他にも飲食サービスや不動産業もやっているわ……」
門をくぐると、両側に立っていた衛兵のような大男たちが腰をかがめて礼をした。「お嬢様、こんにちは」
星野花見は気軽に頷き、「鹿見はいつ出かけた?」と尋ねた。
「二嬢様は朝8時15分にお出かけになりました」
「分かったわ。戻ったら、私に会いに来るように言って」
門の中に入ると、木々に囲まれた庭が広がっていた。
まるで田舎の小道のような石畳の道を歩きながら、多崎司は口を開いた。「鹿見さんって?先生の妹さんですか?」
「そうよ」
「お姉さんの名前はハナミ、妹さんの名前はシカミ。どちらも優雅で、とても良い名前ですね」
星野花見は突然、彼の顔をじっと見た。「京都に花見小路ってあるでしょ?」
「聞いたことがあります」多崎司は頷き、付け加えた。「でも、あまり詳しくはないです」
星野花見の唇がぱっと開き、微笑んだ。
完璧な、そして可愛らしいその笑顔は、彼女を独り占めしたくなるほどだった。
「先生は京都出身で、子供の頃は京都で育ったの。名前も花見小路から取ったのよ」
二人は石畳の道を庭の中を歩いていく。両側は木の柵で囲まれた花壇があり、時折、青々と茂った大きなカシの木の下を通ると、初夏の日差しが遮られた。
「実家は昔、貧しかったの。食いしん坊なママと私を少しでも良い生活をさせようと、パパが家族で東京にやって来たの。築地市場で魚介を売ることから始めて、苦労してここまで来たわ。妹が生まれた頃、ママが京都の鹿をとても懐かしがっていたから、妹に鹿見という名前をつけたの」
「お義父さん、すごいですね!」
「何言ってるのよ」星野花見は彼の頭を軽く叩き、不機嫌そうに言った。「あなた?十年経っても私が嫁に行けなかったら、考えてあげてもいいわ」
この時の二人のやりとりは、師弟関係の堅苦しさが全くなく、とても自然だった。先生というよりは、近所のお姉さんと言った方が適切だろう。
もちろん、少し暴力的な傾向のある、近所のお姉さんだが。
二人は話をしながら歩き続け、庭を出ると、前方に広い広場があり、その隣に大きな室内練習場があった。
「さあ、行きましょう。あなたのために用意したご褒美を見せてあげるわ」星野花見は手招きし、練習場の階段を上った。
多崎司の顔はこわばった。中から聞こえてくる竹刀がぶつかる音と男たちの掛け声を聞き、彼は騙されたような気分になった。
ふざけんな!
俺が見たいのは「教師の授業誘惑」であって、大勢の男たちとの剣道じゃないんだ!
練習場に入ると、20人から30人ほどの人間が竹刀を持って練習していた。練習場の外側には、二人の人物が立っており、練習を監督しているようだった。一人は50歳くらいの厳格そうな中年男性で、もう一人は25歳くらいの、ひどく小奇麗で、どこかひ弱そうな男だった。
元の多崎司が持っていた受動スキルのおかげで、多崎司は、その男が自分を見る目に、わずかな軽蔑と嘲笑が混じっていることに気づいた。
「こっちに来て」星野花見は多崎司を連れて中年男性の前に進み、軽く頭を下げた。「この子は私の生徒、多崎司です。練習のために連れてきました」
そして、彼女は多崎司の方を向いて紹介した。「この方は、私の父です」
「おじさん、こんにちは」多崎司は軽く頭を下げて挨拶した。顔を上げ、彼の顔をじっと見つめる。先生とは全く似ていないその顔を見て、多崎司は心の中で一つの結論に達した。「ママはきっと、天女のように美しいに違いない」。
「私の生徒だと?」星野剛雄は眉をひそめ、胸につかえるものを感じたようだ。彼は腕を後ろに組み、多崎司を見つめた。「娘は君の先生で、理論上は君より一世代上だ。それなのに、私を『おじさん』と呼ぶのは不適切だ」
「一世代上」という言葉を、彼は特に強調するように言った。
小奇麗な男は多崎司を軽蔑するように睨みつけ、狐の威を借る虎のように頷いた。
多崎司は少し躊躇して言った。「じゃあ……お義父さん、こんにちは?」
彼の後ろから「ドン」と音がした。誰かが転んだ音だろうか。
その瞬間、竹刀で打ち合っていた男たちは全員動きを止め、場内は静まり返った。彼らの表情は非常に豊かで、驚愕、不信、そして馬鹿げていると感じるものだった。
星野剛雄はしばらく口を開けたままで閉じることができず、小奇麗な男は眉をひそめて目を丸くしていた。星野花見本人も呆然としていた。先ほど二人が冗談で同じようなことを言っていたが、彼女は全く真に受けていなかった。
しかし、プライベートで言うのと父親の前で言うのとでは、全くわけが違う。
それに……星野花見は、驚きから半信半疑、そして今にも信じかけている父親の表情を見て、心の中で「しまった、早く多崎司をどこかにやって、きちんと説明しなくちゃ!」と思った。
しばらくの静寂の後、人々の間でささやき声が聞こえ始めた。
「あいつ、お嬢様の彼氏か?」
「その可能性は高いな。お嬢様、この前、15、6歳の高校生が好きだって言ってたもんな」
「あいつ、マジでイケメンだな。俺でもドキッとしちまう」
「組長の誕生日に連れてくるって話じゃなかったのか?どうしてこんなに早く連れてきたんだ?」
これらの声を聞いて、多崎司は小奇麗な男の敵意の理由をだいたい理解した。しかし、彼は気にしなかった。それよりも、星野花見が15、6歳の高校生が好きだという話の方が興味を惹かれた。
本当に好きなのだろうか?それとも嘘だろうか?
彼は先生の目に次第に怒りの炎が燃え上がっているのを見て、この一言がもたらした得失を考え始めた。
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