第7話 ボクの話




蝉の声が飛び交う夏の日にボクは一人で出かけてる。




お盆でも仕事が夏季休暇な訳では無いけど、この日はサプライズだ。


目的地に向かう途中で良さそうな花屋さんに寄った。




「何にしましょう?贈り物ですか?」

「そうですね。......これとこれください」

「かしこまりました。ラッピングは......」





花屋さんを後にして、電車に乗った。

扉が閉まっても車内に響いてくる蝉の声を聴きながらふっと向かいの窓の景色を眺めた。



建物がみんな線のようになる景色を眺めてると今度は隣をちらっと見る。


晴天の空に霧がかかるわけなく、ボクはまた肩を落とした。





目的地の駅で降りる。

それから徒歩15分ほどにある墓地。



ボクは毎年この日、母と最後に出かけた命日にこうして訪れている。





「ただいま母さん。今日も暑いね。


こっち来る前に家で車を洗車したんだ。

涼しくて気持ちよかったけど調子乗ってさ、おかけで近くに置いてたカバンはびしょ濡れだったよ」




なんて、答えてくれない墓に向かって、向こうにいる母が涼しくなるように水をかけながら話しかける。

桶の水がなくなると、しゃがんでいつもの話をしてしまう。





「あの日、ぶつかられて線路に投げ出されたボクを母さんが引っ張ってくれなかったらボクがそっちにいけたのかな......



って、こんなこと言ってたら

母さんは泣いちゃうね。」





頭の中で、小さい頃電車の中で出会った同い年の男の子ことを思い出して、気持ちを切り替える。




「じゃあまた来るね。

今度は父さんも連れてくるよ。」



最後に赤と白のカーネーションを供える。





「母さん


カーネーションの花言葉は知ってる?





......赤は母への愛と感謝



......白は亡きあなた(母)を偲ぶ」






高校に入ってから、バイト掛け持ちして生活の足しにしながら貯金も続けて、適齢になったときすぐ車の免許をとった。



4駅分となりの大学に4年も通って、社会人として2度目の夏。

実家からそう遠くない勤め先だけど、それでも電車通勤をしていた。






そうしていれば


いつかまた



母に会えるかもしれない。




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各停 kno @hon23

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