第6話 あゆむ君の話



いつもならそろそろお父さんの仕事の駅に着いてもいい頃なのに、まだ着かない。

こんなに遠かったっけ?



「ママぁ、まだつかな...」

「ここ、座っていい?」



足をぶらぶらしていると、目の前には同じ歳ぐらいの男の子が立っていた。



「いいよ!」

「ありがとう!」



スタスタと駆け寄って、ボクの隣に座る。


「ボク、想汰!」

「僕はあゆむ!」


「あゆむは何年生?」

「2年生だよ!」

「ボクも!一緒だね!」



あゆむ君はボクと同じ2年生。

見たところひとりみたいだけど、お母さんとかはいないのかな?



「あゆむ君はひとり?」

「うん!」

「何しに行くの?」

「うーん...わかんない」

「わかんないの?」

「うん。でもとにかくこれに乗りなさいって言われたから」

「誰に?」

「車掌さん!」




そう言って、あゆむ君は動き出した電車の窓から見える車掌さんを指さした。

乗る電車を聞いたってことかな?




それからボクたちはたくさん話した。

今まで隣に座ってきたのはみんな大人だったから、なんだか新鮮でとても楽しかった。



「あゆむ君はきょうだい、いる?」

「いるよ!妹!すっごく可愛いんだ」

「いいなぁ。ボクは一人っ子だからきょうだい欲しかっなぁ」

「でもいいことばっかじゃないよ。

お父さんもお母さんも妹ばっかで、最後に遊んでもらったのだってずっと前だもん」

「そうなんだ」




寂しそうに話すあゆむ君を気の毒に思った。

きょうだいがいるとそんな感じになってしまうんだ。ボクは今お父さんもママも2人ともよく遊んでくれてるから。





そんなことを考えながら、隣に座るママの方を見あげた。

ママは窓をじっと眺めていた。でも顔がボヤボヤしていてよく見えない。



すると、あゆむ君が続けた。



「でも大好きだよ」

「え?」

「お父さんもお母さんも!」

「あ、うんそうだね。ボクもだよ」

「うん!......でも最後は笑ってくれなかった」

「え、どうして?」

「僕が泣かせちゃった。僕が道路に飛び出しちゃったから」

「え!危ないよ」

「うん。だから今からいっぱい謝りに行くの。多分まだ家で泣いてるから」




悲しい話になって、お互い喋らなくなった。

すると、ボクたちの向かいに人が移動してきて、またその人の手には丸い形をした紫色の花が握られてた。



「あの人も花を持ってる。...なんて花かな?」

「...僕知ってる。アリウムって言うんだよ。僕ももらったよ。」

「そうなんだ。じゃあ花言葉は知ってる?」






「......無限の悲しみ」





その時、アナウンスが流れた。


「じゃあね想汰くん。想汰くんはもうそろそろひとりで降りなきゃだよね」

「うん。もう着くとおも......ひとり?」

「......ばいばい!」

「.........ばいばい」



あゆむ君は駆け足で電車を降りていく。

ホームにいた車掌さんと少し話をしたら、またボクの方を振り返って手を振ってくれた。




しばらくして、電車が動き出すけどボクは唐突に怖くなった。

いつもならとっくに着いてるはずなのに、今だに白い霧がかった景色が流れる窓の外。

みんなして顔がよく見えない乗客の車内。





ママの手を握って不安を取り除きたくて、久しぶりに反対側を見上げた。




「ねぇママ......まま?」

「.........。」




そういえば、電車に乗ってからまだママと喋ってない。



握りたくて伸ばした先のママの手には、白いヒラヒラの花が握られていた。



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