第5話 お兄さんの話
兵隊さんだ......
初めて見た......
今ボクの隣にいるのは、ガチガチの兵服を着た若いお兄さんの兵隊さんだ。
肩にかけてるの、絶対に鉄砲だ......
学校の授業で戦争の話で出てくる姿そのままだった。ボクはテンションがあがって、兵隊さんに話しかけた。
「ねぇねぇ!それ本物!?」
「...なんだ本物って?」
「じゅう!てっぽう!」
「本物に決まってるだろう!侮辱してるのか!?」
「...ぶじょくってなに?」
「.........。」
兵隊さんは面倒くさそうにそっぽを向く。
それでもボクは興奮が抑えられない。
「それ!本当に撃てるの??玉出るの??」
「......なんなんだよお前。今まで何を見て育ったんだよ」
「ボクはお話や動画でしか見た事ないもん」
「...どうがってなんだ?」
「知らないの?カメラで撮ったのをあとでも見れるやつだよ!」
「...よくわからない」
「兵隊さんたちが昔たくさん死んじゃったような戦争があったって、先生も言ってたよ。あとはねー日本は勝てなかったって。」
「......そうだ。僕らは...敗北したんだ」
兵隊さんは突然落ち込んで、顔を伏せてしまった。銃がカタカタ小さい音を立ててる。
ボクもそんな雰囲気ではさすがに話しかけるのはやめた。
しばらくして兵隊さんは顔を上げた。
「今はどんな暮らしているんだ?」
「...どうって?」
「ちゃんと食べ物は配られているか、家は燃えなかったか?」
「家が燃えたことなんてないよ。それにご飯も配られるんじゃなくてスーパーに買いに行くんだよ!」
「すーぱー?なんだそれ」
「スーパーは食べ物が沢山あってね、他にもお菓子とかパンとか歯磨き粉も売ってるよ!」
「そんなに物資が充実してるのか?僕たちは敗けたんだろ??」
動画もスーパーも知らない兵隊さん。敗けたことをやけに気にしてるなぁ。
......そういえば
「戦争のお話をしてくれたおばあさんが言ってたよ!今こうして生活出来てるのは、昔戦ってくれたお兄さんみたいな兵隊さんたちがいるからだって!
___だから今はもう戦争は起こってないんだよって!」
「戦争が......ない?」
「そうだよ!きぬおばあさんがそう話してたよ!」
「...きぬ?きぬって言ったか?」
「うん!きぬおばあさん!ボクたちはもう勝手に兵隊にならないって」
「きぬが......そうかぁ」
お兄さんがほっとした顔した時、電車にアナウンスが流れた。
ボクはぱっと窓から外を見てみると霧のようにぼやぼやとしている人の中に1人だけ鮮明に見える人物がいた。
「あ!きぬおばあさんだ!」
「............。」
すると、お兄さんが立ち上がった。
きぬおばあさんは紫と白の花を持っていた
「へいた......お兄さん、あの花はなんて花?」
「ハナハマサジ」
「はな...えっとまじ?難しい...花言葉はなんていうの?」
「......変わらぬ心、永久不変」
そういって、お兄さんは電車を降りていった。
泣いているきぬおばあさんと寄せあったその肩の鉄砲はいつの間にか消えていた。
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