序章 手記

建正三年(2022年) 七月三十日(土曜日)

 

 今から書くテキストが、誰かの目にふれることはあるだろうか。何年も経ってからこのスマホが見つかったとしても、その頃にはもう誰も中身を見ることができなくなっているかもしれない。破損していなかったにせよ、蝋管ろうかんに録音された音が、現代で簡単に再生できないように。

 

 真っ暗な岩屋に閉じ込められていると、際限なく悲観的になっていく。

 たまたまモバイルバッテリーを持ってきていたのは、幸いだった。それでも、充電がいつまでもつのかはわからないが。もう一つ幸いだったのは、スマホに文字起こしアプリが入っていることだ。これで口述筆記をすれば、小さな画面上でチマチマ書くより、少しは執筆スピードが稼げると思う。続きを書く気が失せてくる前に、なるだけ起こった出来事をつづるよう心がけよう。

 

 まずは自己紹介から。

 おれの名前は、大住おおすみ渡月とつき。D県の県立磯部高校に通う高校二年生。おふくろはおれが生まれてすぐに死んじゃって、役場勤めの親父と二人暮らし。成績は下の上。部活には入ってない。体格はふつう。顔もふつう。趣味は図書館で本を借りて読むこと。あとは、たまにゴーグル型端末で動画を観ることくらい。ゲームも一応やるけど、昔からあまり得意じゃない。スマホにダウンロードしたアプリも、ほったらかしものが多い。ちなみに彼女はいない。

 

 あと何を書いたらいいだろう? 

 読み直して、つくづくゲンナリする。要するに、どこにでもいる、田舎のつまらない男子高校生が、おれだ。

 

 夏休みに、D県沖に浮かぶ毬尾根島という島にやって来たのは二日前のこと。

 どうしてこの島におれがやって来ることになったのか、島でどんな出来事に出くわしたのか。

 文章なんて書いたことがなくて分からないから、大ざっぱに時系列順にするのが判りやすいかな。ところどころ、必要と思われる情報も補足しよう。

 

 いろいろ悩んだけど、せっかくだから、小説風に書いてみることにした。そのほうが、読んでいるあなたが、この異様な出来事に入り込み易いんじゃないかと考えるからだ。実のところ、いつか自分でも小説を書いてみたい、とひそかに思ってはいたけど、まさかこんな状況でそれを実行することになるなんて思ってもみなかった。

 

 さて、最後に、この記録に名前をつけようと思う。どうせだから気分をだして、ミステリ小説みたいにしてみるか。もはやヤケクソだな。

 タイトルはこんな感じ。

 

 『御柱みはしらかん殺人事件さつじんじけん』。

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