第2話 サモン座衛門
彼の目の前には、無数の緑色の線がかたどった、窓も日差しもないだだっ広い矩形の空間があり、彼はその中にぽつんと一人、立ちすくんでいた。
と、そこに、何者かが現れた。
『オーホホホ、最初の相手がアタクシなんて、アナタ様も運が悪くってよ。オーホホホ。』と言いながら現れたのは、まるでキョンシーのような東洋風の衣服を身に着けた、どう見ても角ばった男の顔をしながら、顔に白塗りをこれでもかと言うほど塗りたくった、真っ白な顔の女になり切った男であった。
『貴様、俺の前に立ちはだかって、何のつもりだ!』と俺は叫ぶ。
『あらアナタ、知らないの?この世界は、神がおつくりになった、神聖な戦いの場よ?アナタみたいな細くて枝みたいな造形物が、こんな場所に立てるのを光栄に思いなさい?』と女もとい男は答えた。
『答えになってないじゃないか!答えろ!』と俺は叫ぶ。もう、何が何だかわからない。
『喋るより実際に味わった方が早いわよ。さ、さっそく戦うとしましょ。ま、アタクシは戦わないのだけどね。』と男は言って、手をパンパンと二拍手した。
男の手拍子に合わせて、中空から一体の木偶が現れたかと思うと、男が足を広げるのに合わせて、木偶はしっかりとした足取りで床面に立った。
木偶は眼も口もなく、鼻も耳もない、そしてもちろん表情もない。だがしかし、俺を挑発する風情が、男の心の内が投影されているのか、漂っていた。
『さあ、やっておしまい、マリオネット!気味の悪い小枝ちゃんを捻り潰してしんぜなさい!』と男は叫ぶと、その場で前傾姿勢になり、足踏みをした。それと同時に、木偶が俺に向かって猛スピードで走ってくる。
木が走ることはない。だからこそ、不気味な音を立てていた。『キイコキイコキイコ』という擦れる音が認識できないほど早くなり、『チュイーン!』というような音を立てていた。
『はええ!』と俺は言い、サイドステップを踏んで飛びのいた。すると、木偶は猛然と壁に突っ込み、土煙を上げた。
『あら、逃げ足だけは速いのね。でも、逃げてばかりじゃ勝てないわよ。この子、体力が無限だからね。』と男は言って、壁から身体を引き抜くような動きをして、木偶を脱出させた。
俺は、生まれたてなのに、こんなに早くも恐怖せねばならぬとは、想像もしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます