第3話 木偶のBOY

すると何やら男は奇妙な動きをし始めた。


下腿をくねらせながらも、不気味かつ不自然に力を込めて腰を突き上げるような動きをする。まるで不吉な呪いの踊りかのように見えた。そのあまりの奇天烈さに俺は思わずそちらの方に気が向いてしまった。


かと思うと、壁際に立っていた木偶の奴が、同じ動きをしないなと言う気配だけは逃さずずっと感じていたのだが、そういうこととはどうやら違った。


どうみても、木偶は細くなっている。


これまでも、それなりに巨躯であり、背丈も厚みも図体も大きい、それこそ言葉通りの木偶であったが、何か不吉な予感を感じる、ダイエットを成功させたかのように見えた。


俺は、それを見て、思わず第六感が働いて、思い切り屈伸してジャンプをすることで、その場を飛びのいた。


しかし、半拍子遅れたのか、地中から木偶のものと思われる触手が現れ、俺は全身を掴まれた。


おそらく、木偶の身体の大きさをロスする分、俺を拘束するために地中に伸ばすのに触手を使ったのだ。まるで、アイアンマンがナノテク技術を駆使するがごとくである。


男は笑っている。


『ククク…。いい気味ねえ。だけど、アナタが男前のゴリマッチョプリティボーイならもっと言うことがないのだけどねえ。丸と棒四本のしがない生き物とは残念だわあ。』と男は言った。


『クソがッ!俺は俺として生まれた以上、この姿にイチャモン付けても仕方ねえんだ!それを他人が言うな!くッ!』俺は頭に来たが、身体の締め付け具合からして、それどころではない。今にも腕が折れそうだ。


『あっけないわねえ。もう終わりかしら。面白くないわあ。』と男は尚も不満気である。


『フッ、ふはは、ははははははは!馬鹿め!油断したな!』と俺は気丈に言ってみた。相手の油断を誘おうとしたのだ。もちろん俺に、余裕はないが、そう嘯(うそぶ)いていないと、マジで死にそうだからだ。


『な!何!?どういうつもり!?』男は思いのほか騙されやすい性格らしく、驚いている。


『お前は、俺がピンチと知って、その苦悶する表情を楽しもうと、ここからじりじりと痛めつけるだろうが、その甘さが裏目に出たな!』と俺は言ってみた。我ながら確かにそうだ。木偶の野郎は男が次の操作しないので、俺を締め付けるばかりで、身動き一つできない俺のピンチにありつけながら、一向にとどめを刺そうとはしない。


『なんですって!アタシを馬鹿って罵るつもり!?あらやだ!いいわ!挑発に乗ってあげるわ!これからがちょっとでも楽しいのに!もう!終わらせる!』と言って、俺の方に駆けだす様な仕草をして見せた。男は両手を頭の上に上げて、掌を合わせている。足先も、つま先立ちの足裏を合わせるように、妙な体勢を取っている。


すると、木偶の方に動きがみられ、地面を掘って俺の方に寄越していた触手から身を分離し、細くてしなやかな躯体はたちまち鋭利なランス(槍)のようになった。このまま俺に突進して拘束された俺を突き殺そうというのだ。


『可燃物には炎がピッタリだ!遊びは終わりだぜ!』と俺は余裕をぶっこいた。というのも、これまでの気丈な発言によって、自らが暗示にかかり、心理的余裕が生まれていたのである。その証拠に、先ほどから身体全体が熱源になったかのように熱い。


見ると、俺を包んでいる木偶の、木製由来とみられる拘束が木炭のようにもろくなっているのに気づいた。そして、俺が軽く力を入れたところ、それらはパラパラと塵のように舞った。


『ファイアストーム!!炎舞!!』と俺はカッコつけて叫んだ。するとその途端、俺の全身から放射状に炎の輪が広がった。というより、むしろ俺を中心に、炎の半球が放たれたという感じだ。熱いドームが拡散した。


『ああ!熱い!』と男は叫び、それと同時に木偶は瞬時に消し炭となった。


男の身体は忽(たちま)ち炎に包まれ、まるで火だるまのようになった。


俺は助けるほど生易しくはない。なぜなら、死をも悟った俺に、死を悟らせた者を救う義理は無いからだ。


やがて、男は骸骨のように、肉が全て灰になった。

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