第41話
春樹は玲香が寝付いたのを見届けてから会社に戻った。会社から玲香のスマホや釣り銭などを預かっていると連絡があった。また、玲香の売上金もまだ納金していない。会社に戻ると部長が2階で待っていた。
「エライ目に遭ったな、どうだ、れいちゃんは大丈夫か」
「あばらが二本折れていました、当分は仕事はできそうにありません」
「そうか、意識はあるのか」
「はい!『どうしても話したい事がある』と言うので今でなくてもと思ったのですが」
春樹は玲香を思うと一気に涙があふれ出した。
「部長、玲香がね!『レイプなんてこんなつまらない事で二人の間に溝なんかつくらないで』だって!『体なんて使うためにあるのだから、うんこやおしっこは何万回と使っているんだから、あそこが1回くらい変な男に使われたからって、どうって事、無いでしょう』だって、『ただの事故にあったって思え』だって、笑っちゃいますよね」
もう、涙が止まらない病院からず~と泣きっぱなしだ。部長も言葉が出ない。
「れいちゃんは、強いな~ んん、強い」
春樹は会社に刑事たちが来た事を部長から聞いた。
「刑事さんたちが来て車内カメラを調べていった。三人の話が全部録音されていたので、明日、セントレアへ11時に集合してラオスに行く事も分かっているそうだ。『きっと、海外へ行ってしまえば分からないとでも思ったのかもしれない』と、刑事さんたちは話していたよ。だから、すぐに捕まると思うよ、それから、玲香ちゃんの事は山本班長が知っているだけだから、しっかり、口止めしてあるので会社ではれいちゃんの事は誰にも何も言うな、刑事さんたちにも、そこの所はちゃんと釘を刺しておいたから・・・・・」
部長も涙してた。翌日、春樹は昨夜のニュースが気になった。玲香の事がニュースになっている事を恐れたのだが、どこのチャンネルにも玲香にふれるニュースは無かった。きっと、部長が釘を刺した事が影響したのだろうと、春樹は胸を撫で下ろしたのだ。翌朝、春樹が東部医療センターに来るとすでにあかねが入院用具一式をそろえて病室にいた。修平にタクシーで送ってもらったようだ。玲香はかわいいミッキーパジャマがとても気に入ったようだ。あかね達は昨夜、今池のドンキホーテで大体の物をそろえたらしい。パジャマは玲香の体には圧迫固定具が着けてあるので、ふぁふぁのミッキーの着ぐるみを買っていた。上下に分かれているのでトイレも問題なさそうだ。
「ねぇ、ママ、着替えさせて、一人じゃ無理なの」
「れいちゃん、そのママって言うのどうにかならない。看護婦さんに『お母さんですか』って聞かれてびっくりしたわ、あかねさん・あかね・って呼ばれても・・・イヤだし、ねぇ、これからお姉ちゃんって呼んで、あんた、私の妹なんだから、春樹も私の事をお姉ちゃんって呼ぶのよ」
あかねの目が春樹にも確認を取っている。春樹が答える
「お姉ちゃんって、呼ぶの?と言う事は、修平をお兄ちゃんって呼ぶの?」
あかねと玲香が顔を突き合わせると笑いが込み上げてきたのか、玲香が胸を押さえて痛い、痛いと身を屈める。
「玲香、大丈夫か、看護婦さんを呼ぼうか」
「ハルキが変な事 言うからよ、ちょっと、待ってて、ハァ、ハァ、痛かった
春樹と玲香の間に溝など、どこにも無いと感じた。
「お姉ちゃん、じゃ~お兄ちゃんは仕事に行ったの?」
春樹が聞くとあかねも玲香も、春樹のその言い方がおかしいと言って、また、笑いじゃくる
「イタタタタ、もう、ハルキ、あっち行って、イテテテテ、もう、ヤダ」
「あ、そう!缶コーヒー飲んでくる」
と言って春樹は出て行った。廊下で、玲香たちの笑い声を聞いていた看護婦は不思議そうな顔をして病室から出て行く春樹を見ていた。昨日、レイプにあった病室の悲惨な空気など何処にも無いように見えたのだろうか。あかねが玲香の着替えを手伝っている春樹には二人のやり取りが本当の姉妹のように見えた。
「れいちゃん、冷蔵庫に野菜サンドと牛乳、プリンを入れておいたから食べて」
「それって、おじさんのじゃない?」
「お父さんが、『れいちゃんに!』って買ってきたの」
「ふぅ~ん」
「そう ふぅ~んなの、ふぅ~ん、笑っちゃ駄目よ」
身も心も過去もすべて受け止めて まん @MitsuruAbe
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