第40話 玲香 入院

修平は明日が休みだったので〔スナック茜〕に飲みに来ていた。

その時、春樹から電話がかかってきた。

スマホから流れてくる春樹とのやり取りを聞いて、

あかねが修平からスマホを奪い取ると血相を変えて

「なんだって、れいちゃんがレイプされたって・・・・・?」

驚いたあかねはカウンターの下に潜り込んで話を聞く

「ママ、どうしよう、玲香がレイプされた、あばらも折られたようだ、

どうしよう」

「えぇぇ! どういう事、レイプって・・・・・

だれに・いつ・どこで・どういう事なの?」 


「おれも今、会社から連絡受けて聞いたばっかりだから・・・・・

よく、わからないけれど、

さっき東部医療センターに緊急搬送されたらしいんだ。

おれ、今、向かっている」 


「わかったわ 私もすぐに行くから、電話を切るわよ、いいこと、

冷静に冷静になるのよ こんな時、みんな事故を起こすのだから

すぐに行くから カァーとしちゃダメよ」


あかねと修平は時間はまだ23時前だったが、

お客さんに『玲香が、(妹)が交通事故に遭ったので、すぐに行きたい』

と事情を話してお店を閉めた。

そして、あとの事は智ちゃんたちに任せて

修平とあかねは東部医療センターに向かった。

春樹が東部医療センターに着いた時は、玲香はまだ治療中だった。

警察官が春樹に事の真相を話しているとあかねと修平が来た。

警察官の話では、

玲香のタクシーからSOS緊急通報が発信されたので

タクシー会社の指令センターから警察に通報があったらしい

しかし、警察が駆けつけた時には、強姦魔は逃げた後で、

まだ強姦に加わった人数も何もわかっていなかったのだ。

これから、タクシーの車内外カメラで詳細を調べるらしい。


待合室で待つ事、小一時間、先生が状態を説明してくれた。

「胸部X線検査を見ると肋骨骨折で骨が2本折れている。

今は痛め止めを打ち、圧迫固定をしているので、

しばらく経過を見ましょう。

また、先ほどの精液検査では精子は確認されませんでしたが

一応、緊急避妊薬も飲まれましたので、

上野さんが妊娠をする事はまずありません」


看護婦が病室は何人部屋にするのかを聞いてきた。

春樹は一人部屋をお願いすると10分後、部屋へ案内された。

玲香は眠っていると思っていたが、

今は痛め止めを射っているので、少しは話せるようだった。

あかねが玲香に声をかける。


「れいちゃん、大丈夫、あばらが折れたんだって、痛いよね、

でも、命を取られたわけじゃないから、

手足もしっかりあるから、身体が不自由になったわけじゃないから

大丈夫よね、今日は、もう、寝なさい、

れいちゃんが、生きているだけで十分だから、

いいこと、今日は、何も考えちゃ駄目よ、

眠れなかったら、看護婦さんに睡眠薬をもらって、

静かに寝るのよ、わかった? じゃ、帰るわね」


「ダメ、イヤ、行っちゃ、いや」


玲香は小さな声であかねに右手を差し出すと帰らないでと頼んだ。

「わかったわ、ここにいるから、ずーと、いるから、安心して・・・・・」


玲香が春樹を見る。春樹も、大丈夫かと気遣ってくれる。


「春樹、動揺しているよね」


「何を・・・・・動揺なんかしていない」春樹は首を横にふりながら答えた


「わかるわよ・・・・・どうしても、言っておきたい事があるの」

玲香は胸が痛いのか、眉間にしわを寄せて目をギューッとつぶった。


「玲香、痛いんだろ 無理するな 話は明日聞くから、眠れ」

春樹がいたわる


「おねがい 今 話しておきたいの ねぇ 聞いて」

玲香が春樹に左手を差し出すと春樹はその手をにぎり椅子に腰掛けた。


修平はレイプの話だと思い、いない方がいいだろうと気遣うと、

玲香は居てって言う。


玲香が話し始めた。

「春樹さぁ、人間の体って道具だよね

手は物を投げたり、受けたり、掴んだり、書いたり、物を作ったりする。

足は移動する手段でもあるし、飛んだりはねたり蹴ったりできる。

口は食べたり、話をしたり、噛んだりもするでしょう


春樹、何を言っているか分からないね、ごめんね、


あのねぇ!人って、さ~、生を受けて死ぬまで、

何万回、うんこをすると思う、

おしっこも数え切れないくらいする。何万回、何十万回かもしれない、

手や足だってそれくらい動いているんだと思う。分かる?

つまり、あそこなんて、どんなに使っても

死ぬまでに一万回も使うわけがないでしょう。

せいぜい、三千とか、四千くらい、そんなにも使わないか・・・・・

そこに、知らん男が一回くらい へんなものを入れたからって、

どうって事ないって思わない?」


玲香は泣きじゃくりながら話す。


「ママ、ちがう」玲香はママに同意を求めた。


「そう、そうよ、今更、一回くらい増えたからって、どうってことないわ、その通りよ」

あかねは、そんな考え方があったのかと、涙があふれるばかりだ。


「春樹、分かって欲しい事がある、

あのね、私の心はレイプにあおうと暴行されようと、

春樹に対する思いは変わらない。

私の心はひとつ、春樹しか見ていないから、

わかる、ねぇ、春樹がすべてだから、体なんて、ただの道具、

少し傷ついたけれど、時間がたてば治るから、

だけど、今、ここで春樹に分かってもらわないと、

一生、溝ができちゃう。それがいや、イヤだから、春樹、わかる ねぇ」


「春樹、れいちゃんが何を言っているのか、分かるな、

れいちゃんは強い、

こんな時でも、おまえの事だけを思っている。すごいよ、本当に・・・・・」

修平も涙する。


「春樹、れいちゃんには、貴方しかいないんだから、

こんなつまらない事で溝なんかできたら怒るわよ、分かっているの」

あかねも、涙が止まらない。


「分かっているさ、玲香、俺はレイプって言葉、他人事だったから、

どうしたらよいのか、分からなかったけれど、

玲香の話で、全部、流せたから、

そうだね、ただの事故だな、あいつらは許せないけれど、

レイプなんて・・・・・

ただの事故だ。溝なんか、できるわけが無い。大丈夫だ。

もう、休め、よく、分かったから、それより、この腕も赤あざがすごい、

よっぽど強く、引っ張られたんだな、痛いよな」

春樹の目には涙があふれていた。

玲香は春樹の言葉に安心を覚えた。ここで話をして良かったと思ったのだ


「ママ、お願いがあるの、今日はもう遅いから、

明日、パンティを買ってきてほしい、春樹じゃ分からないし、

入院アイテムもそろえて欲しい、お金は春樹に請求して」


「何、言ってるの、お金の心配はいいから、

明日、一番に持ってくるから大丈夫よ、

ほかに欲しいものはある、食べ物は大丈夫なのかしら、

看護婦さんに聞いてみるわ」


あかねも修平も、玲香の強さに圧倒された。

こんな時でも、しっかり、春樹の事を考えているのだ。

あかねは玲香を思いっきり抱きしめたいと思った。

帰り際、あかねは玲香のおでこにやさしくキスをすると、

玲香の目を見て、頑張れって慰めた。

修平とあかねが病室を出ると、春樹は玲香のベットの横で

ず~~と、手を握りしめていた。

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