第14話『同じクラス』

サイドバイサイド(仮) ~完~


「勉強ができないわけじゃないんだ。実はバイト漬けで、授業に出席できてなかったり、課題を出し忘れたりして、単位を落としちゃったんだ。」


先輩は、私の隣に座りながら、少し照れたようにそう言った。彼の口から語られる留年の理由に、私は心の中で小さく頷いていた。バイト漬けだったから。それは、私も同じはずなのに、なぜか先輩の言葉には、少しだけ、いや、かなり特別な響きがあった。


昨日、レストランで経験した、あのドキドキするような出来事。先輩が私の連絡先をスマホに登録してくれたこと。そして今、こうして大学の同じクラスで、隣に座っていること。全ては、先輩の「バイト漬け」が原因で、私が憧れの先輩と出会えた、奇跡のような繋がりだった。


「へぇ、先輩も大変だったんですね。」


私は、できるだけ自然に、そう答えた。内心では、ニコニコと笑いが込み上げてくるのを抑えきれなかった。先輩が留年したこと自体は、決して良いことではない。でも、そのおかげで、私たちはこうして、より近くで関わることができるようになったのだ。


先輩は、私の言葉に、少しだけ驚いたような表情を見せた後、ゆっくりと微笑んだ。


「なるみは、俺のこと、責めたりしないんだな。」


「だって、もし先輩がちゃんと単位取れてたら、私、先輩の連絡先も知らないままでしたもん。」


私の言葉に、先輩は、さらに大きく笑った。その笑顔は、レストランで見た時よりも、もっと気さくで、もっと楽しげに見えた。


「確かに、そうだよな。お陰で、こんなに素敵な出会いができたんだから。」


先輩は、私の目を真っ直ぐに見つめ、そう言ってくれた。その言葉は、私の胸に、温かい光となって降り注いだ。


講義が始まるまでの間、私たちは、レストランでの出来事や、大学での話、互いの趣味の話などを、尽きない言葉で交わした。先輩の意外な一面を知るたびに、私の心はどんどん惹かれていくのを感じた。先輩の気さくな性格、周りの人を大切にする優しさ、そして、あの私をドキドキさせた「下心」の片鱗さえもが、私にとっては魅力的に映っていた。


「また、今度、ゆっくり話そうぜ。」


講義が始まる直前、先輩はそう言って、私の肩を軽く叩いた。


「はい!ぜひ!」


私も、満面の笑みで、そう答えた。


私の「サイドバイサイド」な関係は、まさにここから始まったのだ。レストランで、遠くから先輩を見つめるだけだった私。しかし、あの連絡先交換という、大胆な(そして、少しばかり「下心丸出し」な)行動が、私の日常を大きく変えた。先輩が留年したという事実さえも、私にとっては、先輩との出会いを運命づける、大切な要素だったのかもしれない。


先輩との出会いは、私にとって、まさに「偶然」と「必然」が織りなす、美しいストーリーだった。そして、このストーリーは、まだ始まったばかり。これからも、先輩の隣で、私も一緒に歩んでいきたい。


(おしまい)

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『彼の隣!!』 志乃原七海 @09093495732p

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