8月21日

「今日、お客さんがあまり来ませんね」

 束沙は店内を眺めてつぶやくように言う。隣に立っている男性は少し考えてから思い出したように言う。

「あぁ、今日から夏祭りか。そりゃ客も来ないわ、こんな数本隣の道にある本屋になんか。束沙さん、明日と明後日はバイト来なくていいよ」

「あ、はい。わかりました。それでは、お先に失礼します」

「はい、おつかれさま」

 駐車場に行った束沙はケータイを取り出す。

「……最近忙しいんだなぁ……」

 自転車に乗って夏祭りで賑わう通りに出る。

「どこかに駐輪場……あれ」

「あ、束沙!」

 渚が手を振る。束沙は渚の頭上にある屋根を見る。

「チョコバナナ……売ってるの?」

「おう! 束沙は食わねぇだろ〜けど。……手伝ってくれたりすっか?」

「え、あ〜……、じゃあ、やろうかな。特にすることもないし」

 渚は後ろに居た老紳士に話し、老紳士は束沙を見て微笑む。

「こんにちは。手伝ってくれるんだね。ありがとう」

「束沙に会計頼んでい〜?」

「わかった」

 数十分後、束沙と渚は一度屋台から出て、休憩がてら通りを歩く。

「いや〜、けっこ〜来たな〜。マジでありがとな」

「ううん。ちなみにイベントみたいなのはあるの?」

「おう! 今日は昼過ぎにステージ発表があったらしいぞ。明日は午後に御輿行列? みたいなのがここ歩くし、最終日には花火大会!」

 渚はニッと笑って言う。

「この花火大会はちゃんと見たいな!」

「そうだね」

「おっ、渚と束沙じゃねーか!」

 2人が名前を呼ばれた方を向くと、茂登と智樹、陽翔がいる。

「夏祭り楽しんでる人手〜挙げてっ!」

 渚の掛け声に合わせて全員が手を挙げる。

「おっと、茂登、勢いつけ過ぎだ」

「わりぃわりぃ」

 智樹と茂登が言い合っている横で、陽翔は渚と束沙に言う。

「カラオケのときは、ごめんね」

「ん? あ〜、別に気にしてないぜ!」

「それぞれ好きなように過ごしてるだけだからね」

「だよなっ!」

「ありがとう」

 微笑んだ陽翔の肩に茂登が腕を回す。

「で、これからコイツのカノジョのこと聞くんだが、オマエらも来るか?」

「あ〜わりぃ、俺らそろそろ戻らねぇと。な」

「そうだね」

「そうか、じゃ、また今度な〜」

 茂登は片手を振りながら半ば強制的に陽翔と歩き出す。

「また今度、陽翔から聞いたこと共有するよ」

 そう言い残して智樹も2人の横へ行く。

「じゃ〜な〜。……さて、戻るか」

「その前に、飲み物を買って行こう」

「それもそうだな」

 日が暮れかけた頃に、老紳士が片づけを始める。

「おじいちゃん、今日は終わり?」

「ああ。明日と明後日も頼みたいんだが、大丈夫かな?」

「俺はヨユーだよ」

 ぱっと渚に視線を向けられた束沙は、微笑んで頷く。

「僕も、夏祭り終わるまでバイト行かなくて良いって言われたし、大丈夫だよ」

 老紳士は何度か頷く。

 片づけを終えて2人は歩いて帰る。

「いや〜、束沙がいてくれて助かったわ。いなかったら多分、客さばききれなかったわ」

「意外と来るんだね」

「……あってか」

 渚はふと立ち止まり、振り返った束沙に両手を合わせる。

「マジでごめん!」

「え、何? どうしたの、急に」

「折角の夏祭りなのに、束沙を俺の勝手で屋台に引っ張り込んだせいで、束沙が夏祭り楽しめねぇじゃねぇか! ホントにごめんよ〜っ!」

 束沙は少しの間目を丸くし、そして微笑む。

「僕は気にしてないよ。渚と一緒にいれてうれしいし」

「そうか……?」

「それより、渚は夏祭りなのに遊ばないの?」

「俺はおじいちゃん手伝うって決めたからな!」

 2人は再び歩き出す。

「そういえば、どういう経緯で屋台の手伝いすることになったの?」

「ん〜と、最近さ、家の近くの駄菓子屋で手伝いしてんじゃん? そこのおばあちゃんが、おじいちゃんと話してて、俺に手伝ってくれないか聞いてきたんだよね」

「そうだったんだ」

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