8月20日
渚と束沙は車を降りる。
「やっと着いた〜!」
束沙は軽く周りを見渡して言う。
「結構人がいるんだね」
「キャンプ日和だもんな!」
父親がバーベキュー用具を取り出し草地に運ぶ。「2人とも、テント張るのを手伝ってもらえる?」
テントを持った母親が声をかけ、2人は各々の返事をして移動する。
「僕、テント張るの初めてだ」
「実は俺もなんだよな〜。今までもキャンプには来てたんだけど、バーベキューのほう手伝ってたからさ〜」
数十分後、出来上がったテントの中に荷物を置き、広げられたシートの上に座る。
「意外と、難しいんだね……」
「きつかった……でも次はもっとパパッとやってやる!」
「誰かと対決でもしてるの……?」
渚は勢いをつけて立ち上がり、束沙を振り返る。
「じゃ、川に行こうぜ!」
「わかった」
束沙も立ち上がり、バケツとタオルを持って2人は移動する。
「お、どこ行くんだ?」
「魚捕りに〜」
「気をつけるんだぞ」
「ほ〜い」
「わかりました」
草地を横切り森に入って少し歩いた場所で水が走っている。
「魚いるかな〜?」
渚が川を覗き込んで唸る。
「もうちょい奥ならいるかな」
裸足になって躊躇なく水の中を歩く。
「足下に気をつけて」
「わかってるよ〜……お、いた!」
バシャッという水飛沫をあげて両手を突っ込み、すぐに頭上にかかげる。
「1匹目ゲット〜!」
束沙が近づけたバケツに入れ、渚はさらに川を進む。
「よし、もっと捕るぞ〜……お、いた」
束沙はバケツを川から少し離して置く。川の方を振り返ると、渚が立っていたところには人の影が見えない。
「え、渚?」
声が水の音に消えていく。一瞬の静けさがその場を満たす。
「……ぶはっ! はぁ、びっくりしたぁ」
「渚っ! え、何があったの?」
「足滑っちった」
渚は少し困ったように笑う。
「今そっちに……と、待って、めっちゃ滑るわ」
バランスを崩しかける。
「泳げそう?」
「ちょっとやってみるわ」
一度水中に入ってから犬かきをし始める。束沙がいる岸に近づきはするが、それと同時に川の流れに押されていく。
「あっ、渚、1回立って」
「えっ、おう、ぉわっぶね」
渚は近くにあった岩に手をつく。
「そこ多分流れ早いけど、こっち来れる?」
「ちょっとビミョーかも。下滑るし。ついでに言うと足痛ぇ」
「……じゃあ僕がそっち行くよ」
束沙は靴のまま川に入る。足場を確認しながら少しずつ進み、数メートル手前で止まる。
「……渚、ここまで来れそう?」
「ちょっと待ってな……」
渚は岩に沿って岸に近づき手を伸ばす。束沙は渚の手首を掴んで川から引っ張り上げる。渚は疲れた顔で笑う。
「あ〜、助かった〜。束沙、ありがと〜」
「足は大丈夫?」
「んっとね……ありゃ、皮剥けてるわ。ま、こんくらいならすぐ治るだろ!」
「ならいいんだけど……」
束沙はタオルを渚に渡す。
「とりあえず戻ろう。歩けそう?」
「だいじょぶだ〜」
渚は全体をさっと拭いて靴を履く。束沙はバケツを持ち、渚を軽く支えながら歩き出す。
「いや〜、マジで助かった〜」
「渚が消えたときは、本当に、心臓が止まるかと思ったよ……。渚が生きてて良かった……」
「俺も足滑ったときは死ぬかと思ったわ。あそこはまだ流れ遅かったからな」
渚はちらっとバケツを見る。
「……魚あんま捕れんかったな」
「命優先だよ」
「いやそりゃそうだけど、なんか悔しいんよな」
「……今度来たら魚の捕り方を教えてほしいな」
「そんなんガッとつかめばイッパツだ!」
「それじゃあわからないよ……」
笑いながら森を抜けてテントに戻ると、母親が2人の方を見る。
「おかえりなさい……て、渚っ!? びしょ濡れになってどうしたの?」
「何かあったのか?」
父親も振り向いて尋ねる。
「川ん中でスッ転んだ〜」
「危ないじゃない! 束沙くんがいなかったらどうしてたの……」
「ごめんなさ〜い」
「無事で良かったな」
「あの、絆創膏とか持ってませんか? 渚の足、皮が剥けているので」
「あら、そうなの? 確かこっちに……」
「魚1匹しか捕れなかった〜」
「それは残念だったな」
「そんなことより、渚は絆創膏もらってきなよ」
「そうだな。魚はまかせた!」
「おう、任された!」
その後、持ってきた食材と魚を焼きながら、2人は濡れた服や靴を乾かした。
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