8月5日
「っあ〜!やっと終わった〜!」
渚は叫びながら身体を伸ばす。
「おつかれさま」
そこから突っ伏し、ため息を吐くように言う。
「もうなんもしたくな〜い」
「でも、まだやることあるんだよね」
「うぅ……」
渚は唸るが動かない。その様子を眺め、束沙は言う。
「じゃあ、かき氷でも食べに行く?」
「かき氷っ!?」
バッと顔を上げた渚に、束沙は頷く。
「でも、急にどした?」
「来るときに、氷って書いてある旗がある店を見たんだ」
束沙は微笑んで言う。
「500円以内の奢るって、約束したしね」
「あ、忘れてた……」
渚はぽかんとした後、立ち上がって言う。
「じゃあ、ゴチになりま〜す!」
炎天下を数分歩くだけで、2人の額には汗が滲んでいる。
「毎日、この中、バイト行ってんよな……」
「そうだね」
「マジで俺ん家寄る意味あんの?」
やつれたような顔で見られた束沙は、微笑んで返す。
「渚と居られて、とてもうれしいよ」
「……そうかよ」
渚は頭の後ろで手を組む。
「まぁ俺も、束沙と居ると楽しいからい〜んだけどさ……ムリしないようにな」
心配そうな視線を送る渚に、束沙は頷く。
「……あ、あそこだよ。前にアイス買ったところ」
「ほんとだ〜!」
店の中に入ると、一角に機械と積み重なっているプラスチックの器が置いてある。側のレジカウンターには背を丸め微笑んでいる老女が座っている。
「かき氷ふたつく〜ださいっ」
「はいはい、ふたつで400円だよ」
「やっす!」
束沙が払った後、老女は奥から氷を取ってきて機械に入れる。
「それ押したら、勝手に削ってくれるからね」
渚がボタンを押し、ガガガ……という音が聞こえ、少し遅れて半透明の雪が降りてくる。
「お〜!」
「渚、僕のも作ってくれない?」
「おうよ!」
一つ目の小さな山ができた頃、老女は5色ほどのシロップを持ってくる。
「イチゴ、ブルーハワイ? 、レモン、ブドウ、メロン、どれがいいかい?」
「渚、どれにする?」
束沙が視線を向けた先には、高くなっていく雪の山を見つめている渚の姿がある。
「束沙の先作っといて!」
「……じゃあ、レモンでお願いします」
「はいはい」
老女は器からとろみのある液体を注射器で吸い上げ、山に黄の蛇を描く。蛇は雪に吸い込まれ滲んでいく。
「はいよ」
「俺のもお願いしますっ!」
「味は?」
「ブルーハワイ、青いやつ!」
渚は山の変化を楽しそうに見つめる。束沙はその様子を眺める。
「これで食べてね」
サクッという音とともにストロースプーンが山に立つ。
「おばあちゃん、ありがと!」
渚は笑顔で言う。
「束沙、外で食べようぜ」
「そうだね」
店の庇が作る影の下に並び立つ。渚が待ちかねたように山の頂上をすくい取る。
「ん〜まっ!」
虫の音が至る所から響いてくる中、2人は山を崩していく。
「……って」
渚が軽く頭をおさえる。
「大丈夫?」
「キーンてきたぁ」
「食べるの早すぎるんだよ」
束沙が軽く持ち上げた器には半分ほど残っているが、渚の持つものにはあと二口ほどしか残っていない。
「だって溶けちゃうじゃんか〜」
「それもそうだね」
渚は束沙が口に運ぶのを見ている。
「……味見する?」
「よっしゃ!」
束沙は器を少し動かしたが、自分のスプーンで山の一部をすくい渚の口に運ぶ。
「あん……んっ! ちょっとすっぱい……」
「レモンだからね」
渚は舌を軽く出す。緑がかっているそれを束沙は見つめる。
「……? どした?」
「……ううん、なんでもない」
「あ、俺のも食う?」
「いや、自分で食べ……いや飲みなよ」
「え、あ……」
青く透明な液体が器の中で輝いている。渚はそれを見て少し肩を落とし、音を立ててそれを飲む。
「俺、この余ったやつ苦手……」
「……同じく」
「じゃあ早く食べなよ!」
「うん」
束沙は食べるペースを上げる。固体として残っている最後の一口を食べた瞬間、顔を顰める。
「どした?」
「痛い……」
渚は一瞬ポカンとした後、笑い出した。
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