8月4日

「昨日はありがとう」

「いやいや、あ〜ゆ〜ときは助けるもんでしょ。それより、起こしちゃってごめんな」

「あれは仕方ないよ」

 2人は向かい合って座る。

「なんか久しぶりな感じするな、こうやって宿題やんの」

「2日、いや、4日ぶりくらいかな?」

「でも、それぞれで進めてただろうし、そろそろ終わるだろ!」

 そう言った渚は、ワークを広げてシャーペンを走らせる。その様子を見た束沙は微笑み、本を取り出す。

「……え、本?」

「どうしたの?」

 渚は束沙を見つめる。

「……あーって!」

 勢いよく立ち上がった拍子に膝をぶつけ、渚はうずくまる。

「だ、大丈夫……?」

「大丈夫じゃねぇ……」

 ガバっと束沙を見る。

「読書感想文、忘れてた〜!」

「……で、読む本は決まった?」

 渚は自分の小さな本棚を見つめ、腕を組んでいる。

「…………よし、これにしよ〜」

 一番端に置いてあった薄い本を引き抜き、ベッドに寝転がる。

「……寝ない?」

「だいじょぶ、だいじょぶ」

 本当かな、とつぶやきながらも束沙は原稿用紙を埋め始める。数十分後、シャーペンを置いて伸びをする。

「ちょっと休憩……」

 渚の方を見ると、本が倒れている。

「やっぱり寝た」

 束沙はベッドに腰を下ろす。

「無防備だな……」

 髪を触るが、渚は動く気配がない。束沙は渚の髪をいじっていたが、少しして上に被さる。

「……渚」

 耳に顔を近づけ、ささやく。

「…………」

「……ふぇ?」

 渚が目を開け上を向くと、束沙はすでにベッドから立ち上がっていた。

「束沙、さっき、なんか言った?」

「さあ? それより、本読まないの?」

「あ……」

 渚は腕を組み、唸り始める。

「……どうしたの?」

「いや、眠らずに読破する方法が思いつかなくてさ」

「横になんなければいいのでは?」

「普通に読んでても寝るんだよ……」

「音読したら?」

「嫌だよ! つーか、束沙の邪魔になるだろ!」

 束沙は微笑んで言う。

「じゃあ、僕の横で読む?」

 渚は首を傾げる。

「渚が寝そうになったら、すぐ肘とかで突くよ」

「……痛くしないでくれよ」

「もちろん」

 束沙が書いているすぐ横に渚が座り本を開く。数分で渚が船をこぎ始めると、束沙は肘を脇腹に軽く突き出す。

「……よし、僕は終わったよ」

「え、早くね? まだ俺……4分の1も読めてねぇんだけど」

「がんばれ」

 渚は少し嫌そうな顔をしながらも、視線を戻す。束沙はその横顔を眺めていた。

「っあ〜、やっと読み終わった〜」

「じゃあ次はどんなこと書くかまとめないとね」

「うっ……」

 束沙は立ち上がる。

「僕はそろそろ帰るね」

「あっ、もうそんな時間か」

 渚も立とうとすると、束沙に押し戻される。

「ちょ、何すんだよ」

「内容を覚えてるうちに、まとめといたほうがいいよ」

「そりゃ……そうだな」

 不満気に口を軽く尖らせる渚を見て、束沙は微笑む。

「とりあえずまとまったら、僕に送ってみて」

 渚は不思議そうに束沙を見上げる。

「文字数に合うくらいまで長くするの、手伝うからさ」

 渚はみるみるうちに笑顔になって言う。

「ありがと〜っ!」

 レジ袋を両手に持って家に着くと、束沙はケータイを見る。

「…………」

 電話をかけ、買ってきたものを片づけながら相手が出るのを待つ。

「もしもし、束沙? どした?」

「どうしたもこうしたもないよ……」

 さっさと冷蔵庫に入れ、ベッドに寄りかかる。

「書くこと1文だけ、しかも眠くなりましたって……」

「いや〜、それしか思いつかなくって」

 束沙はため息混じりで言う。

「まぁいいや、そこから文字数増やしていくよ」

「マジで!? ありがと!」

 うれしそうな声につられて、束沙は微笑む。

「ほら、紙とペン用意して」

「了解しましたっ!」

 そうして2人の夜は明けていった。

「……ちなみに去年はどうやったの?」

「えっと、確か……マンガで書いた」

「ダメなのでは?」

「小説からのマンガだったから大丈夫だったぞ!」

「いや多分それ、なんも評価されてないやつ……」

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