8月2日
窓にバツバツと当たる音がする。
「雨、止まねぇな……」
渚は一人ごつ。机の上にはワークが広がっている。
「今日は来ねぇかな……」
ひとつため息をつく。
「……あれ?」
数回瞬きをして空に問いかける。
「なんで俺、こんな寂しいんだ?」
言い終わるか否かの瞬間にインターホンが鳴り、渚は玄関に行く。
「よっ……て、びしょ濡れじゃねぇか!」
微笑む束沙を慌てて中に入れ、渚はタオルを取りに走る。
「今日、ご両親は?」
「両方仕事〜!」
渚は戻って来て束沙に手渡しながら言う。
「なんで傘持ってねぇんだよ……」
束沙はとりあえず髪を拭く。
「朝晴れてたからいけるかな〜って」
「いや、天気予報見ろよ」
「面倒だったから」
「ケータイで調べるだけだろ!」
束沙は礼を言ってタオルを返す。
「足も濡れてるよな?」
「濡れてるけど、今日はもう帰るからいいよ」
「いや、じゃあ、なんで来たんだよ!」
勢いよくツッコミを入れる渚に、束沙は微笑む。
「やっぱり、渚に会いたかったからかな」
「……そうかよ。まぁいいや、入って入って」
「でも濡れてるから……」
束沙を引っ張り、風呂場に直行させる。
「靴下脱いで絞って、足洗って。タオルはそれ使っていいよ。服は……」
「いいよ、このままで」
「……風邪引くから、後で俺の貸すよ」
渚は玄関に戻る。束沙は数回瞬きをし、少し顔を赤らめた。
「家事、やってるの?」
束沙はほうじ茶が入ったグラスを置く。
「急にどした?」
ドライヤーで束沙の靴を乾かしながら言う。
「いや、なんか手際がいいなって」
渚は軽く上を見る。
「う〜ん……まぁ、共働きだからってのもあると思う」
「なるほどね」
渚はドライヤーを切り、中を軽く触る。
「よし、靴は大丈夫そう。服は……乾くかなぁ」
「乾かなくてもいいよ」
「いやダメだろ!」
束沙が微笑む。雨音が二人の間を流れる。渚は一つため息をつき、ドライヤーを束沙に向ける。
「ゲームしようぜ!」
「どんなやつ?」
和室に移動して電源を入れる。
「格ゲー、パズルゲーム、脱出ゲーム、リズムゲーム、……どれやる?」
束沙は画面を見つめ、その内一つを指差す。
「渚、ホラー系できるんだ」
「え? うん、そりゃ……やる?」
束沙は頷いた。
「束沙〜? 大丈夫か〜?」
「うん」
「いや、手震えてるけど」
「……うん」
暗い学校のような場所が表示されている。非常口を示すランプだけが光っている。
「そこ行って、それ取って」
「取る、てどこだっけ?」
「Xボタン」
「ありがとう」
微かに水滴が落ちるような音が流れてくる。
「敵が近くにいるっぽいね」
「逃げたほうがいい?」
「れっつごー!」
廊下に出て歩く。
「いや走りなよ」
「Lだっけ」
「LとR同時かつ進みたい方向」
「わかった」
走り出すと足音が大きくなる。それに伴い別の方向から音が聞こえ始める。
「逆行け、逆!」
「ここ開いてる」
部屋に入った瞬間、
「「うわぁっ!」」
目を見開き赤い液体を至る所から垂れ流した白い人の姿が、画面いっぱいに映し出される。
「びっくりした……」
「これはさすがにビビるわ……」
「あ、ごめん、コントローラー投げちゃった」
「いいよ別に。俺なんて何回も投げつけてるし」
「投げつけるって……」
束沙は苦笑する。
「次は……これとかどう?」
束沙からコントローラーをもらってやり始める。上からブロックが落ちてきて、1列に揃うと消えていく。
「おもしろそうだね」
「むずいけどな……」
束沙は余っていたのを手に取る。
「対戦もできるんだよね」
「やったことあんの?」
渚がチラと束沙を見た瞬間、残念そうな音楽が流れてくる。
「あ……」
「あらら……。見たことはあるよ」
「……束沙、あんまゲームしないよな」
「START」と表示され、2分割された画面にのそれぞれにブロックが落ちてくる。
「そうだね」
「暇なとき何してんの?」
「う〜ん、寝てる、かな?」
苦笑混じりに答えながらも、ブロックをほぼ隙間なく積み上げていく。
「寝てるって……、うぉ、ちょ、待て待て!」
「待てないよ〜」
渚の画面には白いブロックが積み重なっていく。
「あっ、なっ! 負けた〜!」
「いえーい」
渚は悔しげに唸る。それを見た束沙は微笑んだ。
「もう一戦やる?」
「やる!」
十数分後、渚が寝転がる。
「束沙、ぜってぇやったことあるだろ」
「……まぁ、小学生のときに」
「そうかよ……」
渚は時計に目を向けると勢いをつけて起きる。
「そろそろ服乾いてるといいんだけど」
「そうだね」
束沙もゲーム機を置き立ち上がる。
「夕飯も作んなきゃいけないし」
「まだ湿ってるけど、いいか?」
投げ渡された服をつかむ。
「うん、ありがとう」
その場で着替え、渚の服を手に持つ。
「……」
「どした?」
「……洗って返したほうがいいよね」
「そんなメンドーなことしなくていいって」
出された手に束沙は躊躇いがちに服を置く。
「まだ降ってるよな」
「……走って帰るか」
「いやいやいや!」
扉を開ける束沙の横で、渚は傘を取り出す。
「ほい、明日にでも返して」
「いいの? ありがとう」
束沙は微笑み、傘を開く。渚はサンダルを突っかけて半歩外に出る。
「迷惑かけたね」
「いや、いいよ」
ニッと笑って言う。
「束沙が来てくれて、うれしかったぜ」
束沙は目を見開き、そして笑い返した。
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