第46話 見つけました

 リアーナは再び持っていた剣に力を込め、一心不乱に振り始めた。自分の力の無さを呪うように、エリーの無事を祈るように。

 一方、アレンとディーネは城へ向かって一直線に走っていた。詰所から城まではそう距離もないので数分で着いた。ここで、異変に気付く。

「おかしいな」

 城門前には兵士の一人もおらず、見張りが誰もいないのだ。

「確かにおかしいですね。いくらクラウスの圧政で犯罪が減ったといっても、王族がいる城が無防備なんて」

「罠か……」

 だが二人にとっては罠であろうが、やることは一つであった。エ リーを助ける。そのために最短距離で地下牢に向かい、邪魔する奴は排除する。それだけだった。  しかし敷地内に入り、窓ガラスを割り、場内に進入しても誰一人姿を見せなかった。暗闇と沈黙の中二人の足音だけが場内に響く。警戒を怠らず、ゆっくりと進んだが何も事起こらず地下牢まで進むことができた。

 地下牢へ足を踏み入れると、強烈な異臭が鼻を突く。魔王討伐の旅で幾度となく嗅いだ臭いだった。食べ物が腐ったような臭い、血の臭い、死臭。

 無事を祈りつつ、二人は地下牢奥へ歩みを進める。やがてエリーが捕まっている牢の前まできてアレンは言葉を失った。エリーは両手を鎖で繋がれたまま、ぐったりとして動かない。

「まさか……間に合わなかったのか」

「うそ……」

 ディーネも手で口を押える。

「ディーネ、牢を頼む」

 アレンの言葉にハッとして、自分の手を水で纏い、手刀で牢を切り刻む。空いたスペースからアレンが牢の中に入り、エリーの両肩を掴む。

「おい、エリー!」

「すーすー」

 エリーから漏れる寝息に、アレンは安堵し、力が抜ける。

「はぁぁ〜、良かった」

 エリーもやっと異変に気付いたのか、パッと目を覚ます。

「……アレン?」

 寝起きでまだ状況を理解できていないようだ。

「明日死刑になりそうなのに爆睡とはさすがは団長様だな」

「え? ア、アレンどうしてここに」

 あまりの展開にエリーは慌てるも、両手の自由が利かず、鎖ガチ ャガチャと鳴り響く。

「私に任せてください」

 ディーネがエリーを繋いでいる手錠の鍵穴に指を添える。するといとも簡単にエリーの手首から手錠が外れた。エリーは解放された手首を擦りながら、

「ありがとう、ディーネ」

「いえいえ、こういうとき水は便利ですよ」

 指先から水で作られた鍵を見せた。

「普通はそんな使い方できないわよ。って、なんで二人がここにいるのよ」

「ディーネが、もしかしたらエリーが無茶しているんじゃないかって不安がってさ。念のため来てみたらこういう状況だったってわけさ。まさか爆睡しているとは思わなかったけど」

「ち、違うのよ。明日、逃げ出すための体力を蓄えるためよ」

 慌てて言い訳するエリーに微笑みながら、

「なるほどね、でも本当に無事でよかった。でも安心するのはまだ早い。グランシーヌを出るまでは油断するなよ」

 そう言って、牢の中から出ようとしたがエリーがその場から動かない。

「どうした、エリー。どこか痛むのか?」

 アレンの言葉に、黙って首を振る。

「駄目よ。私はもはや国の英雄に切りかかった重罪人。このままあなた達と行ったら、アレンもその罪を背負うことになるわ」

「でも理由があるんだろ?」

 エリーは思い出す。クラウスが魔王と繋がっているということを。

「アレン、聞いて!」

 その時、三人は上の階から発せられている禍々しい魔力を感じた。

「エリー、話はあとだ。このまますんなり行くとは思ってなかったが、上の奴を何とかしないと」

 エリーはその魔力を知っていた。あの黒い剣を向けられた時に感じた魔力だ。そしてアレンとディーネもまたその魔力の中にわずかに見せる懐かしさを感じていた。三人が地下牢の階段を上がると、クラウスが不気味な笑みを浮かべて立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

3日ごと 22:05 予定は変更される可能性があります

雑貨屋エレールの守り神 咲希斗 @hirosakiaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ