第45話 絶対に助けて見せます

 アレンはろくに構えもないまま、一瞬にしてリアーナとの距離を詰め、持っていた木刀を横薙ぎに振るう。そのあまりの速度にリアーナはアレンを見失うが、目の前で振るわれた木刀に辛うじて反応し、剣で受けた。が、衝撃が強く、のけぞってしまう。態勢を整えた時には、すでにアレンは元の位置に戻 っていた。

「少しは見直してもらえたかな」

 アレンは木刀をリアーナに向け、余裕の表情を浮かべる。刹那の出来事にリアーナは冷や汗を流す。たった一振りでアレンの言う通り評価を覆さなくてはいけなかった。決して油断していたわけでなく、圧倒的な力の差を見せ、いち早く屈服させ城へ連行するつもりだった。

 が、逆に一瞬で力の差を見せつけられた結果となった。初撃を防げたのは全くの偶然。いや、防がされたというべきか。これ以上戦っても自分に勝ちの目の無いことは明らかだった。しかしそれでもエリーを助けるために諦めるわけにはいかないと再び剣に力を込めたその時。

 アレンは持っていた木刀を手から離し、カランと床に転がる。

「何をしている。投降する気になったのか?」

「冗談言うなよ。あんたには焦りが見える。そんなんじゃ、実力も出せないだろう。それにエリーに何かあったんだろ。俺はエリー助けにきたんだ。頼む! 何があったのか教えてくれ」

 そう言って、アレンは深々と頭を下げる。それを見たディーネもアレンを真似る。

 リアーナは驚いた。目の前の男は自分よりも圧倒的な強さを持っているはずだ。なのに、今自分に頭を下げ、懇願している。その気になれば、私を痛めつけて口を割らせることもできるだろうに。その姿に、リアーナも剣を下げる。

「一つ聞く。あなたはエリー団長にクラウス様の暗殺を依頼したのか? もしくはそういう類の催眠をかけたのか」

 その言葉に二人は驚く。思わず、アレンは声を上げる。

「なっ……」

 アレンは言葉を失っていた。その表情、仕草にリアーナはアレンを白だと判断した。そして事の経緯をゆっくりと話し出した。

 エリーが、クラウスに切りかかったこと。今は捕えられ、幽閉されていること。  明日には死刑となってしまうこと。それを聞いたアレンとディーネもまたリアーナにこれまでのエリ ーとの出来事を説明した。

 アレンとエリーとの出来事を知ったリアーナは何故このような事件が起こってしまったのか容易に理解できた。同時にこの国のアレンに対する評価がおかしいことにも気づく。

「まさかクラウス様が……」

「だろうな。エリーは確かに気が強いが、自分の要求を通すためにいきなり切りかかるような奴じゃない。おそらくエリーはクラウスにはめられたんだ」

 アレンは怒りに震え、拳を握る。

 リアーナも指をかみ、顔をしかめる。クラウスにはめられたと知っても、それを証明する手段がない。それにクラウスはこの国の最高権力を持っている。誰も自分のいう事に耳を貸す者も、手を貸す者もほとんどいないだろう。何よりも時間がない。リアーナが苦しむ中、二人の声が聞こえた。

「ディーネ、いくぞ」

「はい」

 振り返り、部屋を出ようとする二人をリアーナが呼び止める。

「おい、どこへいく」

 アレンは振り返り、答える。

「エリーを助けに行く。このまま黙って死なせるわけにはいかない」

 無理だ……と頭をよぎったが、この男ならと期待せずにはいられなかった。クラウスが行う圧政により良くも悪くも治安の面だけは 安定した。脱走や反乱も行う者もここ最近ではほとんどなく、警備も手薄になっている。

 だが仮にエリーを助け出したとしても、この騎士団に戻ってくることはないだろう。だがそれでもよかった。エリーが生きてさえいてくれれば。そう思い、リアーナも覚悟を決める。

「私もいく」

 その言葉にアレンは首を横に振る。「俺とディーネで助ける。あんたはこの第四騎士団を守ってくれ。エリーが大事にしていたこの騎士団を。絶対に助けるから安心しろ」

 リアーナは歯を食いしばり、耐えた。おそらく自分が行っても足手まといになるのは明らかだった。力いっぱい握られ震える拳からは血が滴り落ちている。

「頼む。エリー団長を助けてくれ。何よりも大切な人なんだ」

「任せろ」

 そう言って二人は、走り去っていった。

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