第44話 アレンをバカにする人は許せません

「ディーネ、何をボーっとしているんだ。とりあえず第四騎士団の 詰所にでも向かってみるか」

「そうですね。詰所にエリーさんがいなくても何かわかりそうですし……アレン、数人ここに向かってきます」

「あぁ、わかっている。けど殺気はない。様子を見よう」

 ディーネは軽く頷く。二人はその場に立ち尽くし、自分たちに向かってくるものを待っ た。やがて全身を鎧に身に着けた男が五人、アレン達の前で立ち止まった。その鎧は見覚えのあるもので、以前エリーと共にレクレールに来ていた戦士が着ていたものと同じであった。その中でも中心にいた男が話しかけていた。

「おい。お前がアレン・フリッツで間違いないか?」

 初対面であるにもかかわらず高圧的な態度に多少気に障ったが、 時間も惜しいので大人しく答える。アレンの横では、あからさまに不機嫌そうに立つディーネがいるが。

「あぁ、それがどうした?」

「俺達はグランシーヌ第四騎士団だ。リアーナ副団長がお前を呼んでいる。黙ってついてこい。まぁ、抵抗しても無駄だがな」

 アレンの目の前で威嚇するように、ゴキゴキと指を鳴らす。以前店に来た二人組もそうだったが、こんなやつらしか騎士団にはいないのかと呆れるとともに、こんな輩をまとめなくてはいけないエリーを不憫に思いながら、はぁーと溜息をつく。

 しかし同時に確信を得る。グランシーヌではエレナを殺した男としてのレッテルが貼られており、様々なところから恨まれていることは知っている。このように高圧的に向かってくる者もいるだろう。しかしそれが第四騎士団。それも団長でなく副団長がお呼びとあらば、間違いなくエリーに何かあったのだ。

 ディーネと顔を合わせ、頷く。

「わかった。連れもいるが大丈夫か?」

 男はじっとディーネを見たが、

「構わん。ついてこい」

 そう言うと、騎士団員は規律正しい動きで振り返り詰所に向かっ て歩き出した。  しばらく歩くと、第四騎士団の詰所の門の前に着いた。門の前には二人の騎士団員が立っており、そのうちの一人がアレン達に気づくと、騎士団員の中心の人物に向かってきて、何やら耳打ちをし、持ち場に戻っていった。 詰所の敷地内に入り、建物の中に入ると思いきや、道を逸れ歩き出した。

「おい、どこへいくんだ?」

「ふん、黙ってついてこい」

 言われたままついて行くと、何やら闘技場のような建物が見えて きた。

 この場所は騎士団員を鍛える為に作られたもので、大小の規模の違いはあるが全ての騎士団の詰所に隣接しているものだ。中に入ると黒髪でショートカットの女性が一人、闘技場の真ん中に立っていた。アレン達を案内した騎士団員に目配せすると黒髪の女性に深く礼をして闘技場を後にした。リアーナは箝口令がひかれている以上、団員を残すわけにはいかなかったのだ。

 黒髪の女性はアレンを睨みつけ、

「私はグランシーヌ第四騎士団副団長のリアーナ・フェリエットだ。 お前を捕えて、クラウス様に引き渡させてもらう」

 そう言って、腰に携えていた長剣を抜き、アレンに向けて突き出す。

「おい、ちょっと待てよ。いきなりすぎて訳が分からない。エリーはどこにいるんだ」

 アレンの言葉に、リアーナは更に睨みを効かす。

「ふん、白々しい。武器を持て。何なら横にいる女と一緒でもいいぞ」

 アレンは怒りに溢れるリアーナとの対話を諦め、ディーネから一本の剣を受け取る。

「一人でいいよ。そちらも何故か一人だしな。俺が勝ったら、事細かに話してもらうぞ」

「ふん、勇者パーティーといってもCランク程度の荷物持ちが一対一で私に勝てるわけがないだろう」

 確かに騎士団の副団長といえば、ランクで言えば少なくともB。既に団長レベルにある副団長も存在する。リアーナもエリーには及ばないものの、十分に団長になれる腕を持った剣士だ。他の団では団長になれるレベルだが、エリーへの憧れが強すぎて、副団長の地位で共にいることを選んでいるのであった。

 しかし荷物持ちと言われ、気に障ったのはディーネの方だった。

「アレン、剣を間違えました。それでは全力を出せないですよね」

 代わりに出したのは剣ではなく木刀だった。

「これだったら多少強く叩いても死にはしないですよ」

 と、挑発するようにリアーナに向けてにやりと笑う。

「ふふ、舐められたものだ。そんな物、一撃で叩き割って後悔させてやる」

「まぁ、やってみないと分からないだろ。じゃあ時間もなさそうだし行くぞ」

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