第43話 頼もしい店主です。

 リアーナはエリーが閉じこもって調べていた図書館にいた。日は 既に落ち切ってて、外は暗闇に包まれていた。

「団長はここで何かを調べていた。きっと何か手がかりがあるはずだ」

 司書の情報から、エリーが調べていた文献を探し出し片っ端からページをめくっていた。そしてあるページで指が止まる。

「ここ、ページに折り目がある。内容は……」

 そこに書かれていたのは、クラウスのパーティーと魔王との最終決戦の記録とその後が記されたものだった。そのページは誰かが一 度握りつぶしたようにくしゃくしゃになっていた。

「それにしてもアレン・フリッツ……最低な男ね。もしかしてこの男が関係している?」

 その時、リアーナの部屋の扉がノックされる。

「どうぞ」

 扉が開くと、リアーナの部下が立っていた。

「リアーナ副団長、報告があります。先ほど、グランシーヌの検問にあの勇者パーティーのアレン・フリッツが来られて町に入ったそうです」

「何! アレン・フリッツだと!」

 リアーナは細かな情報も逃さぬよう、念のため自分の部下を検問に張らせ、少しでも変わった人物が現われたら自分に報告するようにしていた。

「はい。何年も町を離れていたのにいきなりどうしたんでしょうね」

「つれてこい……」

「は?」

「騎士団の詰所に今すぐにつれてこい! 抵抗するようなら強引にでも構わん。勇者パーティーといっても所詮Cランク。数で潰せばどうにでもなるはずだ!」

 騎士団員はリアーナの滅多に見せぬ剣幕に驚く。

「かしこまりました」

 このタイミングでアレン・フリッツが現われるとは……リアーナ は確信していた。エリーの行動にはこの男が関係していると。

 リアーナもそそくさと書籍を片付け、詰所へ向かうのであった。

 一時間前。アレン達はグランシーヌまで五kmのところまで来ていた。「おい、クック。そろそろ降ろしてくれ。これ以上近づくと撃ち落されるぞ」

「何を冗談おっしゃいますか。私が主様以外の人間の攻撃を受けるなどあるわけないであります」

 そう言いながらもクックはどんどんと高度を落とす。

「そうかもしれないが、できるだけ目立たなく町に入りたいからな。 ディーネも一旦姿を隠してくれ。町に入ったらまた呼ぶから」

 グランシーヌは町に入る際に検問がある。アレンは特に犯罪をして町を出たわけではないので特に問題はないと考えていた。まだエリーが何か問題を起こしたと決まったわけでもないので、できるだけ自然に町へ入るつもりだったのだ。もちろん例の魔王討伐の件で、周りからは冷たい視線を浴びる事 はあるかもしれないがそれは覚悟の上だった。エリーの安全が確認できるならたいしたことではない。

 アレンが地に降りると、ディーネはいつものようにくるりと回り姿を消し、クックも小さな鳥となってその場を去った。

「さて、急ぐか」

 グランシーヌの検問は夜だったこともあり、人はほとんどいなかった。検問では以前使っていたアノールド全域で通用する身分証を提出した。これがないと手続きでかなりの時間を要してしまう。少しは反応があるかとも思ったが、特に他の商人などと変わらないように町の中に入る事ができた。

 勇者パーティーといっても、目立っていたのはクラウスとエレナ、 そして特定の層に人気のあった【幼賢者】クローナ・コーエンぐらい。当時でもアレンは一人で歩いていると声をかけられることも稀であった。

 しばらく町を懐かしむように歩いていたが、検問が見えなくなると、ひと気のない所でディーネを呼ぶ。ディーネが光の中から現われると、大通りへ出てキョロキョロと辺りを見渡す。

「かなり久しぶりな気がしますけど、あまり町の雰囲気は変わりませんね」

「まだ二年しかたっていないからな……」

「そうですね。まだたった二年ですね」

 魔王を討伐するまではこの町を拠点としていた。アレンとエレナも多くの時をこの町で過ごした。どこを見ても、アレンにはエレナ との思い出が蘇るはずだろうとディーネは心配になり、アレンの顔を見る。しかしそこには予想に反し、揺らぎや動揺など微塵も感じさせず、 凛とした姿の男の姿があった。

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