第42話 失敗したなぁ。
だからこそ、今の地位や立場を捨ててでもエリーを助けたいと思うのは当然のことであり、何よりも優先すべきものだった。
「だったら大人しく通せ」
「それは無理だ。俺はお前まで失いたくはない」
「そうか……」
リアーナは腰に携えた剣に手を添える。反射的にコランも剣を抜こうとした瞬間、
「落ち着け!」
ロリックの一喝が二人を止める。
「おい、リアーナ。気持ちは分かるが、俺の前でその発言は感心せんな。ここで捉えられたいのか?」
ロリックの言葉にリアーナも落ち着きを取り戻し、
「ではどうすれば……」
「出来ることは限られるな。もし、エリーが自らの意思で反乱をおこなった訳でないと証明できれば……その恩を受けたという人物に会う必要がありそうだな」
「しかし、そんな時間は……」
リアーナは悔しそうに指をかむ。
一方その頃地下牢では、エリーが両手を鎖で繋がれ、身動きの取れない状態となっていた。 地下牢は多くの牢が所せましと並んでいたが、使用しているのはエリー只一人であった。
これはグランシーヌが犯罪のない町というわけではない。クラウスが軍部をとりしきるようになってから、犯罪者はほとんどが即刻死刑、もしくは拷問や懲罰によって命を落とす。ゆえに一部からは圧政と言われるが、犯罪率が低下しているのも事実 であった。
「失敗したなぁ……まさかクラウスが魔王と繋がっているなんて。でも私の身はどうなってもいいから、この事実を信頼できる人に伝えないとグランシーヌの未来が……でもどうやって」
すると、奥の階段から人の下りてくる音が聞こえた。その足音はエリーの牢の前で止まる。姿を見せたのは、アノールド・インフェルミナ。アノールド王国の女王である。地下牢には似つかわしくない純白のドレスに身を包んでいる。
「インフェルミナ様! こんなところに一体何を」
思わずエリーは声を上げる。
「エリー団長、久しいですね。こんな形でお会いしたくはなかったですが。まぁ、よいです。あなたには任務とはいえ私の命を助けていただき、ありがとうございました。最後にこれだけはどうしても言っておきたくて」
深く礼をし、頭を上げた目は悲しげだった。
「インフェルミナ様、今更命乞いなどいたしません。しかし一つだけ聞いてほしいことがあるのです」
「クラウスのことですか?」
「はい、その通りです。奴は魔王と繋がっています。はっきりとクラウスからこの耳で聞きました」
しかしエリーの予想とは異なりインフェルミナは厳しい視線をエリーに投げかける。
「エリー……やはり洗脳を。エリー、魔王は既にクラウスによって倒されたのです。現にグランシーヌは平和そのもの。仮にクラウス が魔王の手先だとしても自らそれをエリーに伝える意味もわからないわ。まぁ、洗脳されているあなたにこんなこと言っても無駄でしょうけど」
「私は洗脳なんて……」
エリーは悔やんだ。誰も自分の声を聞いてくれない。誰も自分の言葉を信じてくれない。弁明の機会などまるでなかった。国を救った英雄であり勇者であるクラウスへの信仰はそれほどまでに強大であった。騎士団長である自分の言葉が子供の戯言のように扱われるとは。このようになるならば、あの時必死で抵抗するべきだったと。
「もうよいです。明日死刑となる前に、礼を言いたかっただけですので」
そう言って、踵を返し地下牢を後にした。
「私の命も明日までか……」
今更自分の命など惜しくはなかった。騎士団に入った瞬間から常に覚悟していることだ。それに彼がいなければとうに息絶えていただろう。その彼に恩を返すことができなかったこと。それだけがエリーの心残りであった。思わず拳に力が入り、静寂の地下牢内に鎖の音だけが響き渡る。
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