第40話 まさか……
「私は先日のサラマンダーの任務である人物に出会いました。その人物の名はアレン・フリッツ。かつてあなたと共に魔王を討伐した 一員です。私は彼に助けられ、無事任務を達成できたのです」
アレンの名を口にしたとき、クラウスがどういった反応をするのかエリーは気になっていたが、予想に反してクラウスはにやりと気 味の悪い笑みを浮かべる。
「あの臆病者か。仲間を見殺しにしておいて、まだおめおめと生き延びているとは。恥ずべき男だ」
その言葉にエリーの頭に血が上る。
「アレンは、そんな男ではありません。今日はそれを言いに来ました。魔王討伐の際の報告書。これは間違っています。ディーネが話してくれました。本当はあなたの魔法が暴発したせいで……」
そこまで話して、エリーは自分に向けて強烈な殺気を当てられていることに気づき口が止まる。クラウスの目線が真っ直ぐエリーに向けられている。
「くっくっくっ。俺の魔法が暴発ねぇ」
「何がおかしいのですか。知っていると思いますが、私の目は嘘を見抜きます。ディーネの言っていることは全て本当でした」
「あぁ、知っているさ。だから今、お前の目を真っ直ぐ見ている。 ディーネの言っている事は間違えだらけだ」
エリーはクラウスの目を見るが、言う通り嘘を言っているようには見えなかった。動揺するエリーに向けてクラウスは続ける。
「俺の魔法が暴発? 笑わせてくれる。あれは狙ってやったんだよ。エレナが死んだのは想定外だったが」
「えっ……」
エリーはあまりの衝撃に言葉を失う。
「本当はエスパス様にはアレンを殺してほしかったんだが。まぁ、アレンは廃人になり、エレナが死んだ。結果としては最高だったな」
エリーは耳を疑った。エスパス様? エスパスとは確か当時の魔王の名前だったはずだ。それを様付け?
「まさか……」
「そのまさかだ」
そう言って、クラウスは立ち上がり机を飛び越えると、右手には 真っ黒な剣が握られていた。思わずエリーも腰に携えている剣に手をかけた瞬間クラウスが飛び掛かってきた。
『間に合わない……』
クラウスのあまりの速さに死を覚悟しながらも、手にかけた剣を目の前に振り抜く。
「ぐわぁぁぁぁぁ」
予想に反して、先に剣が当たったのはエリーの方だった。しかし、 あまり手ごたえはなく剣先がかすめた程度だろう。それなのに目の 前の男は深手を負ったかのように苦しんでいる。そこでエリーはハッとした。クラウスが握っていたはずの剣がないことに。
気づいたときにはすでに遅く、クラウスの叫び声を聞いたロリックが激しく扉を開けた。ロリックの目に映ったのは血の付いた剣を持つエリーと、胸を押さえて苦しむ勇者グレイブ。ロリックは迷わずエリーを睨みつける。
「ち、ちがう」
力なく首を振るエリーだったが、クラウスの声にかき消される。
「油断した。まさかいきなり切りかかってくるとは」
ロリックはエリーを睨みつけたまま剣をとる。
「血迷ったか、エリー・グレイシア」
「だから違うって。裏切り者はクラウスよ。彼は魔王とつながっているわ」
ロリックは一瞬クラウスの方を見たが、すぐにエリーを睨みつける。
「魔王はクラウス様達がすでに倒している。それは共に旅をした仲間達も証明しているぞ」
「それは……」
返答に困るエリーによそ目に、ロリックはポーチからポーションの瓶を取り出し、 クラウスに向けて投げる。クラウスは一気に飲み干すと、何事もなかったかのように立ち上がり、エリーは勇者と第三騎士団長に挟まれる形となり、クラウスが口を開く。
「さて、何故このようなことをしたのかは後で聞くとして、大人しく捕まってくれるかな」
クラウスは気味悪く笑みを浮かべる。エリーは構えていた剣を下ろし、手を放すと床に剣が音を立てて転がる。このまま抵抗 してもこの二人相手では敵うわけもなく状況は悪くなる一方。それ ならばなんとか弁明できる機会を信じてここは大人しくすることにしたのだ。そのままエリーは地下牢へ閉じ込められることとなった。
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