第39話 言いたい事いってやる
「そうだったんだけど、やらないといけないことができてね」
それを聞いてリアーナは悪い予感がよぎる。
「団長、任務から戻っていきてから一体何を調べているのですか? 王女の快気祝いの式典には顔を出さず、図書館に籠って、出てきたと思えば今まで取ったことのない休暇で王都を離れてしまわれるし。私に手伝えることがあったら言ってください」
エリーは笑みを浮かべ、
「私は今回の任務で、ある人に大きな恩を受けた。その恩を私は少しでも返したくてね。そんな個人的なことにリアーナを巻き込めないわ」
「ある人って誰ですか?」
「もし上手くいったら分かると思うわ」
そしてエリーはリアーナの肩に手を置く。
「でももし上手くいかなかったら……その時は第四騎士団のことをお願いね」
そう言うとエリーは振り返り、部屋を出ようとする。リアーナは呆気にとられ、言葉を失っていたが、エリーがドアノブに手をかけた所でとっさに呼び止める。
「待ってください!」
その言葉にエリーは振り返ることなく、答える。
「団長として命じます。あなたは今日一日この詰所を一歩も出ずに警備にあたりなさい。以上」
「なっ……」
リアーナはエリーを呼び止めようとした手を伸ばしたまま、エリーが部屋を出ていくのを見る事しかできなかった。エリーは詰所を出ると、その足でクラウスのいる城へ出向いた。 城門の前には衛兵もいるのだが、エリーは団長という地位があるのですんなり城へ入る事ができた。城へ入りクラウスのいる場所はどこかと辺りを見渡していると、 黒い服を着た細身の男が奥から現れニコニコとしながら話しかけてきた。執事のクラークだ。長年にわたってグランシーヌ城に仕える筆頭執事である。
「これは、これはエリー様。今日はどういったご用件でしょうか」
「クラークさん、今日はクラウス様にご報告したいことがあって来ました。
「そうですか。ではクラウス様に取り次いでまいりますので、客間の方でお待ちください」
クラークに客間へ案内され、一人になるといくつも並んでいる椅子の一つに座る。
「ふぅ。ここまでは何も問題ないみたいね」
一般人では同じようにはならなかっただろう。そもそも城に入る事すら叶わない。同じ騎士団の団員でも城へ入るだけでも、よっぽどの理由がなくては入れない。ましてやクラウスに会う事など天地がひっくり返ってもありえないだろう。もしかしたら今日は会えないかもしれないが、その日に取り次いでもらえるなどグランシーヌに十人しかいない団長の特権であろう。この時ばかりは自分が団長となっていて良かったとエリーは思った。
客間で三十分程過ごすと、扉がノックされ、クラークが入ってきた。
「エリー様、これからクラウス様が会っていただけるようです。案内いたします」
その言葉を聞いたとき、エリーの喉がごくりと鳴る。大丈夫。別に戦いに行くわけではない。あくまで話し合いにいくだけ。そう自分に言い聞かせながら立ち上がりクラークの後ろをつ いていった。二人は無言のまま、クラウスが待つ部屋まで歩いた。クラークはクラウスの部屋の前で立ち止まり、軽くノックをすると、中から低い男の声で入れと聞こえた。クラークが扉を開けると、さきほどの客間の倍以上はある広い部屋の奥に座って、机越しにじっとこちらを見ているクラウスが目に入った。
しかし部屋にいたのはクラウスだけではなかった。クラウスの横に立っていたのは、グランシーヌ第三騎士団長のロリック・オリバ だった。ロリックは入れ替わりの激しい団長職を十年も続けている猛者であり、エリーも尊敬する人の一人だった。年齢は既に四十を 超えているが、その力強い剣技は、若い挑戦者達を何度も退けていた。
エリーの緊張感はさらに増す。エリーは部屋に入る前に、深々と一礼をし、二人に近づく。クラ ークは扉をゆっくりと閉め、部屋を去った。エリーが机の前に辿り着くと、クラウスから声をかけてきた。
「エリー団長、久しぶりだな。確か団長への任命式以来か?」
「そうですね」
クラウスは魔王討伐後はめっきり外へ出ることが少なくなった。 魔王がいなくなり比較的平和になったこともあるが、それでも難易度の高い任務は多い。先日のエリーの任務もそうだ。それでもクラウスが自分で動くことはなく、部下にあたる騎士団長に任務を任せる。その指令も第一騎士団長から受けるので、団長であってもクラ ウスと会う機会はほとんどないのだ。「それで、今日は何の用だ? 俺も暇じゃないんだ。簡潔に話せ」
クラウスは全く表情を変えず、低い声で話す。目線もエリーに合わせることもなく。エリーがチラリとロリックを見ると、それに気づいたクラウスが首を出口に向けひねり、外へ出ておくよう促す。ロリックは軽く会釈をして、部屋を出る。それを確認したエリーは、ためらうことなく自分が今抱えている不信感をクラウスにぶつけた。
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