第13話 アレンは変態さんです
「じゃあ次はアレンの番ね。私はちゃんと極秘任務まで話したんだから、ちゃんと答えるのよ。あなたは一体何者?」
エリーはじっとアレンを見つめる。またもやあの青い瞳に吸い込まれそうになる。
「俺はただの雑貨屋の店主だよ。すこしばかり魔法が使えるだけで ……」
アレンは昔のことなど話すつもりはなかった。二年前の自分は捨てた。全てを捨てて、グランシーヌを去ったのだ。
「ウソよ! 只の雑貨屋の店主が魔人を相手にあんな冷静にいられるわけないわ」
「それはディーネがいてくれたからさ……」
そう言って、アレンは横目でディーネを見る。
「そうですよ。危なくなったらいつも私を戦わせるんですよ。全くひどい雇い主です」
ディーネもアレンの気持ちを察するように合わせた。エリーはその目でアレンが本当のことを話していないということ は見抜いていたが、アレンのただならぬ雰囲気にそれ以上追及することができなかった。その後、特に会話もないまま各々が休息をとる。十分程経ったと き、沈黙に耐え切れなくなったディーネが声を上げる。
「そろそろ行きましょうか。さっさと火山を登っちゃいましょう」
「そうね。なんか気を使ってもらったみたいで申し訳ないわ」
エリーから見た二人は、まだまだ体力が有り余っているようだった。疲れを見せていたのは自分だけだった。自分より力が上の存在に出会うことはこれまでも幾度かあったが、自分が一番下になることは今までなかった。足を引っ張るとはこういう気持ちかと悔しさをにじませるが……
「エリーは重い鎧を着ているからしょうがないよな。俺がそんなものを着ていたら一歩も歩けない」
アレンの気遣いが気持ちを楽にしてくれる。
「ふふ、見た目よりそんな重くないんだけどね。でもこの鎧はグラ ンシーヌの技術の粋を集めた特注品よ。特に今回は耐火、耐熱の魔法も付与されているわ」
エリーは両手を腰に当て自慢げに胸をはる。
「ふーん」
アレンはエリーの来ている鎧を上から下へじっくりと観察する。
「な、何よ。そんなジロジロ見ないでよ」
「よし、ちょっとその鎧脱いでみてよ」
「えっ、はあぁぁぁぁぁぁ? いきなり何言ってんのよ!」
エリーは腰に当てていた手を自分の胸を隠すように前で組み、ア レンの視線から逃げる様に体を横に向ける。
「え?」
「アレン、いくら欲求不満でも出会って二日目の女性にそれはないと思います… …」
アレンはハッとして、
「ちち、違うって。その鎧がどれほどの物か見たかっただけだって。 ちょっと腕に着けているガンドレッドだけでもよかったんだよ」
アレンが慌てて弁明するが、エリーだけでなくディーネも冷やや かな目でアレンを見る。
「アレン、さっきの言い方じゃ只の変態さんですよ」
「ほんとよ。そうならそうとはっきり言いなさいよね」
エリーは安心したように、左手に着けていたガンドレットを外し、 アレンに手渡す。アレンはガンドレットを受け取ると、いきなり上 空に向けて高々と放り投げた。
「ちょっと、何するのよ」
アレンは空に浮かんだガンドレッドに向けて手を伸ばす。
「インフェルノ」
アレンが魔法を唱えると、爆音とともにガンドレッドが激しい炎 に包まれる。そして空に浮かんでいた銀色に輝いた美術品のような 美しい鎧の一部は、黒焦げで粉々になって地面に落ちてきた。
「やっぱりな……言っておくけどサラマンダーの炎はこんなもんじ ゃないからな。俺は炎系統の魔法は苦手な部類だし。まともに食らったら骨も残らないよ」
やはりこの男は只者ではない。エリーは粉々になった鎧の一部を 見て確信した。この鎧はグランシーヌ騎士団でも五指に入る魔導士の魔法にも耐える耐火性を持つ。それをアレンは一発の魔法で。まるで紙を燃やすように。たしかに、この鎧がこの先意味をなさないことは分かった。でも……
「左手の装備が……それにこの鎧高かったんだけど」
「あ……」
エリーは左手の防具がない状態で佇んでいる。いくら美しい鎧に身を包んでいても左手がむき出しでは不格好で、無防備だ。もちろ ん替えの鎧など持っているわけもない。
「ディーネ… …替えの服持っていたよね。エリーに貸してあげて」
ディーネは呆れたように溜息をつき、リュックから服を一着取り 出し、エリーに渡す。
「もう! 後先考えずカッコつけるからこんなことになるんですよ。 あっ、このままじゃ変態さんがいるので着替えられませんね。ちょっと待っていてください」
「だれが変態さんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます